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旭川「新子焼き」黄金の輝き 若鶏半身を食べ尽くす

2015/3/25 日本経済新聞 夕刊

「新子焼き」といってピンとくる人は何人いるだろうか。「焼き団子の一つ?」「ふぐの白子を焼いたもの?」など、東京の知人に聞いても首をかしげるばかり。正解は若鶏の手羽を含む骨付きの半身を炭火などで素焼きしたもの。発祥の地とされる北海道旭川市では庶民のソウルフードとして、戦後から親しまれてきた。道内でも知る人の少ない名物、新子焼きの神髄と不思議に迫ってみた。

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発祥の地とされる旭川市では庶民のソウルフードとして、戦後から親しまれてきた

まずは名称の由来から。出世魚のコハダは稚魚の時は新子と呼ばれる。若鶏は肉ではあるが同様の意味で新子、それを焼くので新子焼きという名で良いと言って広まったというのが定説になっている。

新子焼きの原料である若鶏に地元産はほとんどない。旭川には戦後、養豚場は多かったが、養鶏場は少なく伊達や知床など他の道内産鶏を仕入れた。なぜ豚や牛でなく鶏、しかも若鶏が好まれたのか。

戦後、肉は高価な食材で頻繁に食べることはできなかった。食料不足に道内でも屈指の積雪寒冷の厳しい自然環境が追い打ちをかける。貴重なたんぱく源をとるために地鶏なら比較的安く食べられる。成長を待っている暇はなく、若鶏の段階で最大限に栄養をとる料理法として開発されたとの説が有力だ。

それ以降、クリスマスに七面鳥ならぬ新子焼きを家に持ち帰って食べるなど旭川市民に親しまれてきた。タレで味付けが旭川スタイルとされる。

「新子焼き」加盟店ではのぼりをたてて誘客に努める

新子焼きを食べてみよう。最初に訪れたのは1950年創業の老舗店「焼鳥専門 ぎんねこ」。20店弱が軒を連ねる「5.7小路ふらりーと」入り口に構える。「30分前からじっくり焼いていました」。店内に炭火とタレの香りが満ち、黄金色した新子が焼き上がりつつある。3代目の久保竜弥さん(35)がぎんねこ流作り方を指南する。

伊達産で生後6週間の若鶏を背中から割り内臓を中抜き。胸、あばら、モモ、手羽元など鶏の形が感じられる部位を一体で残す。あじの開きのように半身にした肉を炭火で焼き、65年間継ぎ足してきた秘伝のしょうゆベースのタレにくぐらせて完成だ。

「手でちぎり、部位ごとの食感の違いを楽しみながら食べるのが流儀」。こんがり焼けた皮はパリっとかぐわしく、ピンク色をした中の肉はさくっと新鮮な味わい。手羽やももに進むにつれて軟らかみが増す。「食べやすくあんばいした」タレは甘辛であっさり、さらっと浸透し食べ心地を増す。1本400~500グラムを30分ほどで完食した。

もっと味わうなら久保さんが会長を務める「新子焼きの会」加盟12店を巡ると良い。全国区の名物に押し上げようと有志が集い、2012年に発足。肉を1日ヨーグルトに漬けより軟らかに仕上げる。イタリアン風にするなど様々な調理法で提供する。

黄色い旗に「旭川名物 新子焼き」と書いたのぼりが目印だ。昨年11月に全店制覇で各店の無料パスカードなどがもらえるスタンプラリーを実施した。

趣が違う新子焼きが味わえるのが1946年創業の名店「独酌 三四郎」。店主の西岡●(●は大の下に明、あきら)さん(68)は「酒のつまみに食べやすいよう40年ほど前から骨抜きして焼き、カットして出している」と話す。

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骨抜きした若鶏をかまどで軟らかく焼き上げる(独酌三四郎)

しょうゆと砂糖、みりんでコクと甘さはあるが、しつこくない味わいのタレをくぐらせながら15分ぐらいで焼き上がる。レンガと軟石のかまどで熱が伝わりやすく軟らかい仕上がり。酒には高砂酒造の「風のささやき」を推奨する。旭川産の酒造好適米、吟風を使ったすっきりとした味わいが新子焼きを引き立てる。

「たまに食べきれなかった新子焼きを家に持ち帰り冷めたままごはんに混ぜて食べると最高だというお客さんもいる」という。試してみる価値はありそうだ。

冬にマイナス30度、夏場は30度を超える独特の気候風土で育った新子焼きに季節はない。各店には情報を知って国内各地、台湾やオーストラリアなどから訪れる人も増えてきた。

「祖母は食べ方が汚いとお客さんを叱った」(久保さん)、「先代は酒2本飲まないと出さなかった」(西岡さん)。新子焼きに関するエピソードも尽きぬ個性的な店が待っている。

<マメ知識>4月5日は記念日
4月5日は「新子焼きの日」。旭川市の新子焼きの会は昨年秋、一般社団法人日本記念日協会から登録認定を受け、今年初めてその記念日を迎える。「全国に認知されるインパクトのあるものを」(久保竜弥会長)と普及効果を狙う。当日からは割引イベントなどで盛り上げる計画だ。
新子焼きを全国に届けようと、ぎんねこはギフト商品を開発。出来上がりを真空パックし、急速冷凍した。同会は新子焼きを媒体にした地域おこしをテーマに様々な活動を進めていく考えだ。

(旭川支局長 川井幸司郎)

[日本経済新聞夕刊2015年3月24日付]

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