植物が出現し、気候を変えた デイヴィッド・ビアリング著古生物の謎に挑んだ科学者たち

2015/3/25

生命の進化史を語る物語は偏向している。思い出してみてほしい、地球の大まかな年代区分の比喩を。魚類の時代、爬虫類(はちゅうるい)の時代、哺乳類の時代といった見出しが思い当たるはずだ。

(西田佐知子訳、みすず書房・3400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 そう、地球の歴史は代表的な動物グループの隆盛で語られることになっているのだ。だが、爬虫類の時代になったからといって、魚類がいなくなったわけではない。恐竜はいなくなったが、哺乳類と爬虫類は未(いま)だに共存している。

 しかも、生物で一貫してメジャーなのは細菌類である。昆虫だって、哺乳類より種類も数もはるかに多い。なのに細菌の時代とか、昆虫の時代と呼ばれることはない。

 いや、大切なことを忘れている。地球上に生息している生命体は、動物や細菌だけではない。植物がいるじゃないか。大気中の酸素の大半を供給しているのは、ほかならぬ植物である。植物がいなかったとしたら、地球はどんな惑星になっていたことやら。

 本書は、そんな逆転の発想を迫る目から鱗(うろこ)の告発である。著者の専門は植物学と古気候学。植物化石の種類と変遷から過去の地球の環境を復元する研究分野の成果を、すばらしい科学読み物に仕上げている。

 たとえば、今から3億年近く前に関する謎。その当時の地球には、広げたはねの差し渡しが63センチもある巨大なトンボ、メガネウラが生息していた。そのほかにも、体長が1メートルもあるムカデもいた。それに合わせるかのように、シダやトクサなどの植物や両生類も巨大化していた。

 しかしその巨大生物たちは、5000万年ほどの栄華を楽しんだ後でこつ然と姿を消した。いったい何があったのか。

 科学者たちはその謎に果敢に立ち向かった。最もあり得る可能性は、当時は大気中の酸素濃度が高く、大気圧も高かったというものだった。大気圧が高ければ体を浮かせやすいし、酸素濃度が高ければ呼吸による代謝率も高くなる。そこで科学者たちは、この仮説を裏付けるデータを探し求めた。

 詳しい顛末(てんまつ)は読んでのお楽しみだが、著者はすぐに答えを明かすのではなく、科学者たちの挑戦を犯罪捜査を思わせる筆致で語っていく。

 捜査の重要証拠は、化石や地層だけではない。生きている植物からも得られる。過去の地球を再現する作業は総合科学だということ、化石研究の重要さが納得できる好著である。

(筑波大学教授 渡辺 政隆)

[日本経済新聞朝刊2015年3月22日付]

植物が出現し、気候を変えた

著者:デイヴィッド・ビアリング
出版:みすず書房
価格:3,672円(税込み)

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