薬膳茶で春を健やかに

「このお茶はスープみたいに濃い味がする」「これはアロマオイルのような良い香り」。ゆったりとした音楽が流れる部屋で、5人の女性がテーブルを囲み、目の前で注がれたお茶を口々に試飲する。いれ立てのお茶の香りが漂い、くつろいだ雰囲気だ。

ここはウーロン茶専門店「清品茶房茶通」（東京都渋谷区）が開く薬膳茶教室。国際中医師の資格を持つ店長の田島庸喜さんが講師を務め、薬膳茶の作り方や理論を1時間半で教える。1～5人から受け付け、料金は1回4320円（税込み）。参加者のほとんどが女性だ。

医療関係の仕事に就く依田美弥さん（44）は2年前からの常連で、この日も参加。「忙しくて疲れた日も、ここで香りのいいお茶を飲むと元気をもらえる」とほほ笑む。

「薬膳だからと難しく考えず、色や香り、味わいを五感で楽しんでもらいたい」と田島さん。薬のように飲みづらいものより、おいしく感じるお茶が体にも良いという考えから、田島さんは味や香りをじっくり味わう「ティーセラピー」を提案する。

この日にテーマとしたのは「のびのび春茶あそび」。二十四節気の立春から穀雨までを題材にして、田島さんが独自にブレンドした6種のお茶をみんなで飲み比べた。

例えば、「春分茶」には梅の花を浮かべたり、4月初めの「清明茶」には爽やかな香りの茶葉にユズの皮を組み合わせたり。「季節の移り変わりをお茶で味わえた」と参加した会社員の高豪子（コウ・ホジャ）さん（34）は満足げだ。

薬膳とは東洋に古くから伝わる栄養学のこと。自然と人との調和を説く陰陽五行説を基に、食を通じて足りないものを補い、気や血の滞りを無くすというのが基本の考え方だ。「お茶から自然の気を取り入れると、心身ともに癒やされる」と田島さんは言う。

「陽の気が高まり、環境の変化も多い春は自律神経が乱れやすく、消化器官や肝臓機能が弱りやすい」と話すのは薬日本堂（東京都品川区）の漢方スタイリスト、小林香里さん。薬膳の観点からは、自然の甘味や苦味を積極的にとることが良いとされる。その一方、「収れん作用のある酸味は、発散しようとする体をぎゅっと引き締めてしまうのでほどほどに」と小林さんは言う。

春の不調におすすめの薬膳茶として、花粉症には菊花とミントを組み合わせたスッキリとした味わいのお茶を小林さんは提案。乾燥菊花がなければ生の食用菊（上のレシピで作る場合、花びら15～20枚が適量）で代用できるという。菊花は頭がのぼせてボーッとする時やめまいなどに効果的。ミントは気の巡りを良くし、鼻づまりや喉の腫れ、痛みを和らげる。

不眠にはナツメとカモミールを入れた甘いミルクティー、ストレスにはバラの花茶とクコの実で作る華やかな香りのお茶が緊張をほぐす。ナツメは食欲不振や心身の疲れに、クコの実は眼精疲労に良いとされる。「ナツメは切って入れると味が出る」（小林さん）。材料は漢方薬局や茶葉専門店のほか、スーパーでも手に入るものは多い。

健康にはもちろん、心の持ちようも大きく影響する。「動植物が活発に動き始める春は人の体内にも変化がある。ストレスをためずのびのびと過ごし、新しい趣味や習い事を始めるのに向いています」（小林さん）。自然に従えば心身ともに健やかになるというのが薬膳の基本。ちょっとした休憩時間にお茶を味わい、季節や心、体の変化に向き合ってみるのもいいだろう。

（柳下朋子）

［日経プラスワン2015年3月21日付］