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増える「ギャンブル依存」 治療の取り組み急務

2015/3/20 日本経済新聞 夕刊

パチンコや競馬などをしたい気持ちが抑えられない「ギャンブル依存」への注目が高まってきた。厚生労働省の推計では、疑いがある人は全国で500万人を超える。意思や性格の問題ではなく、精神疾患の一種とされ、深刻なケースではカウンセリングなどの治療も必要になる。
久里浜医療センターのギャンブル外来でカウンセリングをする河本医師(神奈川県横須賀市)

神奈川県三浦市の男性(27)がパチンコ店に通うようになったのは約10年前。当初は月1回程度だったが、やがて連日足を運ぶように。給料を使い果たし、借金も100万円を超えた。異変に気づいた両親が1月、久里浜医療センター(同県横須賀市)の「ギャンブル外来」に連れていき、ギャンブル依存と診断された。

■9項目でチェック

同センターは初診時、チェックリストをもとに診断する。「興奮を得るために賭け金額を増やして賭博したい欲求が生じる」「賭博に心奪われることが多い」など9項目中4つ以上当てはまればギャンブル依存と診断される。

ギャンブル依存の発症メカニズムは解明されていない。ギャンブルが強い興奮状態を引き起こし、特定の脳内物質が分泌されるなどしてやめられなくなるとの説もある。厚労省研究班の2013年の調査では、ギャンブル依存の疑いがある人は推計536万人。成人全体の4.8%に当たり、男性が8割を占める。

治療は「認知行動療法」と呼ばれるカウンセリングが中心だ。久里浜医療センターでは「ギャンブルをする目的」を尋ね、ギャンブルで満たしたい欲求を書き出す。あわせて欲求を満たす解決策も患者自身に考えてもらう。解決策として「ギャンブル」を選んでも否定せず、「一つの目的に絞って賭博すること」と条件を示す。

この男性は金銭欲のほか、人間関係によるストレス解消を挙げた。カウンセリングを通じ、夫婦関係に原因があることがわかった。通常1カ月半~3カ月程度カウンセリングを継続し、その度に個々の欲望が満たされているかなどを話し合い、依存につながる欲望の解消を見つける。

精神科の河本泰信医師は「依存に陥る人は金銭欲や現実逃避、ストレス発散など複数の欲望を求めてのめりこんでしまう。欲望を満たす行動を一つ一つ示すと自然とやめるようになる」と話す。

■遅れる受診

外見に変化が現れにくく、受診が遅れるのもギャンブル依存の特徴だ。

岡山県精神科医療センター(岡山市)の橋本望医師が昨年、患者330人を調べたところ、ギャンブルを開始した年齢は平均21.1歳で、初めて借金をしたのが同31.1歳。これに対し、治療の開始は同41歳だった。借金をするまでのめり込んでから医療機関を受診するまでに10年近くたっている計算だ。

同センターでは、医師らの面談を通じてギャンブルのメリットとデメリットなどを患者に意識させ、考えを見直すよう促す。また依存症患者でつくる自助グループへの参加も勧めており、同じ状況の仲間と悩みや情報を共有することで、回復につながりやすいと考えるためだ。「仲間の存在を感じることで、通院が続けられる」(橋本医師)

ギャンブル依存症への認識が高まるにつれ、医療機関の役割も増している。久里浜医療センターの専門外来は今年4月以降、週3回に拡大するなどして患者の受け入れを増やす予定だ。河本医師は「患者を全国で診ることのできる体制の整備が急務だ」と訴える。

◇            ◇

■アルコール・ネット…増える依存 国も治療へ取り組み

依存症とは、快感や高揚感が生じる物質を摂取したり、特定の行為を繰り返したりした結果、行動を制御できなくなる状態のこと。日本ではアルコールや薬物、ネットなどへの依存も深刻な課題となっている。

厚生労働省研究班によると、世界保健機関(WHO)のアルコール依存症の診断基準に1度でも該当したことのある人は日本国内に男性約95万人、女性約14万人と推計している。近年はスマートフォンやパソコンの使いすぎで健康や生活に影響が出る「ネット依存」も深刻だ。同研究班によると、依存傾向にある成人は推計421万人と2008年の約1.5倍になり、今後も増えるとみられる。

国もこうした依存症への対策を迫られており、厚労省は全国5カ所の医療施設で依存症患者の症例を集め、16年度をめどに治療・回復プログラムの開発を目指す。

依存症に詳しい岩崎メンタルクリニック(神奈川県)の岩崎正人院長は「依存症には家庭環境や経済状況など発症につながる特徴がある。効果的な治療につなげるためには、こうした背景を集約し、分析する必要がある」と話す。

(塩崎健太郎)

[日本経済新聞夕刊2015年3月19日付]

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