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長岡「しょうゆ赤飯」祝いの友 茶色い餅米 県外ファンも

2015/3/18 日本経済新聞 夕刊

新潟県長岡市周辺の限られた地域で見かける独特の赤飯。それが「しょうゆ赤飯」だ。かつては慶弔に欠かせない料理として、最近はより日常的な食として、長岡の人にとっては慣れ親しんだ定番メニューだ。

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「お客さんからの電話で、箱に赤飯と書いてあるけど中身が違うと言われることがある」。長岡市内で餅菓子などを販売する「江口だんご」社長の江口太郎さん(46)は苦笑する。長岡で開かれる結婚式などに出席した県外の人は、土産に持たされた「お赤飯」の箱を開け、茶色いもち米を見て驚くことが多い。

江口だんごでは蒸したてのしょうゆ赤飯(左下)に郷土料理を組み合わせたメニューも出している

「しょうゆ赤飯」「しょうゆおこわ」など呼び方は様々だが、長岡人はシンプルに「赤飯」と呼ぶ。一般的な塩味の赤飯と異なり、名前の通りしょうゆを使って味付けされたおこわだ。

一般的な赤飯に使われる豆は小豆やささげだが、しょうゆ赤飯はインゲン豆を使う。赤飯は小豆やささげの煮汁を使って赤く色づけするが、しょうゆ赤飯はしょうゆで色づけする。日常的に食べられる地域は限定的で、「山一つ越えて隣の柏崎市に行くと赤い赤飯が一般的」(江口さん)だ。

長岡市郊外の民家を再生した江口だんご本店では「長岡赤飯」の名前で蒸したてのしょうゆ赤飯を提供しているほか、通信販売で全国へ売っている。一般的な赤飯があっさりとした塩味なのに対し、しょうゆやみりん、酒などで味付けしたしょうゆ赤飯には県外のファンも多いという。

スーパー原信に並ぶしょうゆ赤飯

もちろん長岡人もよく食べる。長岡市に本社があるアクシアルリテイリンググループのスーパー「原信」は新潟県内や長野、富山まで店舗を展開して、しょうゆ赤飯を販売する。だが関連会社で販促・営業企画を担当する古田島亮輝さん(43)によると「最もよく売れるのは長岡市周辺」だ。

総菜コーナーに置いてある200グラム入りのしょうゆ赤飯が軽い昼食用として日常的に売れるほか、土日には家庭で食べるのか400グラム入りが伸びる。かき入れ時は入園入学の多い春や帰省客が増える盆正月など。一般的な赤飯とは色も味も異なるが、祝い事と結びついている点は変わらない。

結婚式場「長岡ベルナール」の支配人、井上克則さん(50)も「出席者への土産として、まんじゅうなどと一緒にしょうゆ赤飯を出すことが多い」と話す。幼稚園の入園式で園児に赤飯を持たせることもある。

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ルーツははっきりしない。もち米やしょうゆ業界が需要を増やすため最近になって始めたとの説もあるが、河井継之助記念館の館長、稲川明雄さん(70)によると「江戸時代に長岡藩の殿様が大阪相撲の力士をつれてきたのがきっかけという話もある」。殿様からしょうゆや味噌を造る許可を得た元力士が、店の前にあった寺にしょうゆを譲り、その寺がしょうゆで味付けした米を信徒に提供したのが始まりと、明治時代の文献に書かれているそうだ。

当時のしょうゆは赤味噌から取ったたまりで、取れる量が少ない貴重品だ。「赤味噌のたまりを使ったから調理するともち米が赤くなった。今のしょうゆ赤飯は普通のしょうゆを使っているので色も茶色になるが、本来のものとは違う」と稲川さんは指摘する。

長岡市が開いた「みんなの食育塾」でしょうゆ赤飯の作り方が教えられた

由来はともあれ、しょうゆ赤飯は長岡人の間に定着し、祝い事や法事など人が集まる時に作られる家庭の味となった。今では越後製菓(長岡市)に代表される地元食品企業も製造するが、代表的な郷土料理の一種として家庭で伝えていく取り組みもなされている。

「調味料は、少しずつ米にかけてください」。2月26日、長岡市が主催する「みんなの食育塾」でしょうゆ赤飯を含む郷土料理を学ぶ講座が開かれた。出席した20人ほどの生徒は、講師を務める長岡市食生活改善推進委員の説明に熱心に耳を傾けていた。

講師の一人の鰐渕けい子さん(66)も子供の頃に祖母がしょうゆ赤飯を作っていた様子を覚えている。「調味料の配分、蒸す前にインゲン豆をゆでるか否かなど、実は家庭ごとにレシピが違う」のも、しょうゆ赤飯の特徴だ。長岡にとっては地域を代表する食文化の一つといえる。


<マメ知識>具にヒジキや油揚げ
長岡で広く食べられているしょうゆ赤飯だが、飲食店でメニューとして出されるケースはほとんどない。蒸す必要があるため飲食店では扱いづらい、しょうゆ赤飯だけで味がついているのでおかずがいらなくなる、といった理由があるようだ。
しょうゆ赤飯以外にも、長岡にはもち米を使った独特の料理がある。代表例が「五目赤飯」。インゲン豆はなく、代わりにヒジキやニンジン、油揚げなどを入れて、やはりしょうゆで味付けしている。子供にはむしろこちらの方が人気のようだ。

(長岡支局長 水口博毅)

[日本経済新聞夕刊2015年3月17日付]

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