千日のマリア 小池真理子著世界と繋がる奇跡の瞬間

2015/3/12

修子が昔、一緒に暮らしていた日出夫は、「生きているものの中で、人間だけが嫌いなんだ」というのが口癖だった。別れてから15年。彼の死の知らせを聞いて、日出夫が最期を暮らした街を訪れる。さまざまなことを修子は思い出す。その晩秋の一日がゆっくりと語られていく。本書に収録の「常夜」という短編である。

 いま修子は50歳。恋人もいない。だから「長く生きてきて、足のすくむような、怯(おび)えてしまうような孤独感には慣れっこになっている」が、その街を去るとき、彼女は天啓を得たように立ちすくむ。もう淋(さび)しくはない。この短編は、その奇跡の瞬間を描く短編だ。

 ホームに立って空をふり仰ぐと、いちめんに拡(ひろ)がる群青色の澄みわたった夜空に、わななくように光る星々が散らばっている。このシーンが美しい。その瞬間、自分が世界と繋(つな)がっていることを彼女は実感するのだ。

 常に厭世(えんせい)的だった日出夫も、あるいは誰よりも人を愛し、愛されたいと願っていたのではないか――との発見が彼女をとらえる。なにか体の奥深くから、力のようなものがこんこんと湧いてくる。

★★★★★

(文芸評論家 北上次郎)

[日本経済新聞夕刊2015年3月11日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

千日のマリア

著者:小池 真理子
出版:講談社
価格:1,620円(税込み)

今こそ始める学び特集
今こそ始める学び特集