歌舞伎座3月公演仁左衛門の菅丞相 必見

歌舞伎座は13年ぶりとなる「菅原伝授手習鑑」の通し。仁左衛門の菅丞相(かんしょうじょう)(菅原道真)を頂点に中堅若手が主力となる一座だが、興味の行き場もおのずからこの2点に分かれることになる。

菊之助の桜丸、梅枝の八重が初々しい序幕「加茂堤」から「筆法伝授」「道明寺」と菅丞相の物語が中心となる前段は、清爽の度を一層深めた仁左衛門にくぎ付けとなる。神韻縹渺(しんいんひょうびょう)、いずれ誰かに受け継がれるにせよ、これだけの菅丞相は今をおいて見られないだろう。心ある人たちに多忙を差し繰ってもご覧になることをお勧めする。

「筆法伝授」は染五郎の源蔵、梅枝の戸浪が仁(にん)にかなった好演。魁春の園生(そのお)の前はこの人の傑作だろう。眼目の「道明寺」は秀太郎の覚寿、芝雀の立田の前、歌六の土師兵衛(はじのひょうえ)、弥十郎の宿禰太郎(すくねのたろう)と今日あたう限りの適任者がそろう。壱太郎の苅屋姫、菊之助の輝国、愛之助の宅内はこの体験が将来への礎となろう。

「車引」「賀の祝」「寺子屋」と続く夜の部は、さながら近未来の歌舞伎を支える面々の試金石を見る趣。いずれも精いっぱいの熱演で好もしいが、見る方も熱が入って少々くたびれる。染五郎が後半は松王丸に転じて線の太さ、手強さを身に付けつつある右肩上がりぶり。することは的確である。愛之助の梅王丸は正攻法で役に取り組む姿勢がいい。仁・柄とも一番の適任は菊之助の桜丸だが、難関の「賀の祝」を精いっぱいの努力で持ちこたえた。左団次の白太夫が渋いところを見せる。

「寺子屋」は今月これ一役の松緑の源蔵がストレートをビュンビュン投げる熱血投手のよう。壱太郎の戸浪ともども「筆法伝授」と配役が替わる。孝太郎の千代、亀鶴の玄蕃がさすがに兄貴格らしい一日の長を示す。27日まで。

(演劇評論家 上村 以和於)