若い女性のがんと妊娠 卵子・卵巣、治療前に凍結出産可能性残す

若くしてがんにかかると、治療は成功しても、その後に子供を持つことが難しくなるケースがある。子宮などを切除する女性に限らない。白血病や乳がんで抗がん剤を使う場合などは男女とも該当し、精子・卵子がうまくつくれなくなる可能性がある。子供を持ちたいという患者の意向に配慮し、治療を優先させながら将来の不妊を避けようとする取り組みも始まった。

「若いがん患者に対して、妊娠しやすさを保つ取り組みや生殖機能を失った場合の心と体のケアを国の対策として進めてほしい」。2014年12月、国のがん対策の方針を話し合う厚生労働省のがん対策推進協議会の会合で、委員を務める阿南里恵さん(33)が意見書を提出した。阿南さんは23歳で子宮頸(けい)がんを発症、子宮摘出手術などを受けた後、不妊という事実を突きつけられて苦しんだ。

がんを治すためには、妊娠・出産が難しくなっても受け入れるしかない――。日本では従来、こうした考え方が一般的だった。だが治療技術の進歩で、がんが治ったり、うまく付き合っていけたりする確率が高まった。40代までのがん患者の中には治療後の妊娠・出産を望む人も出てきた。

■抗がん剤ダメージ

12年11月には、がん治療と生殖医療の連携を目指すNPO法人「日本がん・生殖医療研究会(JSFP)」が設立された。その中心となった聖マリアンナ医科大学の鈴木直教授は「治療後の人生が長い若いがん患者にとり、生活の質の向上はとくに大事だ。将来、子供を持てるかもしれないという希望を持って治療に臨めることが望ましい」と話す。

がん治療は抗がん剤、手術、放射線が柱だ。女性では治療で卵巣の機能を維持できるかが重要になる。若い患者も多い乳がんや、白血病などでは抗がん剤や放射線の影響で卵子がダメージを受けやすい。止まった月経が治療後に再開する例もあるが、そのまま閉経するなどして自然妊娠が難しくなる人もいる。「年齢や薬剤の種類、治療期間などで卵巣への影響の出方は個人差が大きい」(鈴木教授)

女性の妊娠機能を保つための試みの一つが、受精卵や卵子の凍結保存だ。治療前に卵子を採取する。パートナーがいる場合、より凍結に強い受精卵の状態で保存する例が多いという。不妊治療の技術として確立しており、取り組む医療機関も全国で40カ所を超える。

ただ、卵子を採るには排卵を促す薬剤などを使うため2週間程度必要で、がんの診断後すぐに治療を始めるケースでは間に合わない。そこで考案されたのが、卵子を含む卵巣組織の凍結だ。比較的短い期間で採取できる利点がある。腹腔(ふくくう)鏡などで患者の卵巣を採取して小片にして凍結する。がん治療を終えた患者の体内に移植すれば卵子が形成され、自然妊娠や体外受精が可能になる。

この方法は試験的な位置づけだが、欧米などではがん以外の病気の患者も含めて実施されており、すでに赤ちゃんも生まれているという。国内では、聖マリアンナ医大病院が15年1月までに164人の組織を凍結し、このうち約3割ががん患者だった。15以上の医療施設が実施などを公表している。ただ、白血病などでがん細胞が卵巣に入っている可能性があると実施できないなどの制約もある。

妊娠機能の温存法実施に不可欠なのが「がん治療と生殖医療の連携だ」(鈴木教授)。地域の医療機関が連携して妊娠を希望するがん患者を支援する先進的な取り組みも始まった。その一つが、岐阜大学の森重健一郎教授らが13年2月に発足させた「岐阜県がん・生殖医療ネットワーク」だ。県内の25施設程度が加わる。

■納得して方針選択

妊娠について知りたい患者は、主治医の紹介により岐阜大病院がんセンターの「がん・生殖医療相談外来」でカウンセリングを受けることができる。がんの状態など一定条件を満たせば、卵子凍結などができる施設を紹介する。温存法終了後、すぐにがん治療を始める。14年12月までに男女計で80人以上が利用した。森重教授は「県内の該当患者はほぼ網羅できている」と話す。

患者の多くは漠然と不妊への不安を持っている。実際は、がんの状態などから妊娠機能の温存が難しい場合も多い。このため抗がん剤の影響や年齢との関係、がんの再発リスク、生殖医療の成功率、費用など判断材料となる情報を伝える。

相談した女性患者56人のうち約4割は相談のみでがん治療に戻り、受精卵や卵巣組織凍結などを実施したのは2割以下だった。古井辰郎・岐阜大准教授は「目的はがん治療を納得・安心して受けられるようにすること。妊娠機能温存の可能性を患者、がん治療医、生殖医療医が一緒に考えることが大切だ」と指摘する。

日本がん・生殖医療研究会はホームページで、がん患者が相談できる医師などを紹介している。その一人でもある国立がん研究センター中央病院の清水千佳子外来医長は「(卵子凍結などに)挑戦する人も結果的にあきらめる人も、十分な情報をもとに納得してがん治療と妊娠・出産の方針を選ぶことが大切だ」と話す。

[日本経済新聞夕刊2015年3月6日付]

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