災害に強い病院、備え着々 耐震化・患者情報管理…

東日本大震災から間もなく4年。大地震など大規模災害が起きた際に病院が医療機能を継続するための備えが進んできた。災害拠点病院や救命救急センターを持つ病院の耐震化率は78%に達した。ハード面だけでなく、電子カルテを保存したりスマートフォンを使った患者の情報システムを構築したりとソフト面の対策も強化された。

老朽化した病院を建て替えて2014年12月にオープンした愛媛県立中央病院(松山市)の診療棟は、3種類の免震装置を組み合わせ、震度7に耐えられる構造にした。

災害時用の貯水槽は非常時最低必要量の3日分に当たる約1000トンを確保し、1日250トンくみ上げる井戸も掘った。電源は引き込みを2ルート化し、非常用発電機2基と平時の60%にあたる電力を3日間まかなう9万リットルの重油貯蔵タンクを設置した。

同病院の浜見原・災害医療センター長は「周辺の県の防災ヘリコプターで傷病者を受け入れる想定のため、重量のあるヘリでも着陸できるヘリポートを備えた」と語る。

■情報バックアップ

診療情報を電子カルテの形で記録している病院では、被災時に電子情報が失われる恐れがある。

名古屋大病院、国立名古屋医療センターなど愛知県内の6病院は13年、「愛知メディカルBCPネットワーク」を立ち上げた。過去の診療記録や処方歴などを、厚労省が進めるSS―MIX(電子的診療情報交換推進事業)の形式で富士通のデータセンターのバックアップシステムに蓄積する。電子カルテが使えなくなった際、他の参加病院や避難所から情報を引き出すことができる。

病診連携で電子カルテ情報を共有化する例はあるが、災害対応に特化した試みは初めて。「延べ50万人の情報を共有することで、災害時に適切で効率的な診療が可能になる」と名古屋医療センターの佐藤智太郎・医療情報管理部長。

災害時に多くの負傷者を受け入れる災害拠点病院の準備も進む。

スマホを使った災害対応無線管理システムでのトリアージ訓練(大阪市住吉区の大阪府立急性期・総合医療センター)

大阪府の基幹災害医療センターである府立急性期・総合医療センター(大阪市)は、受け入れる傷病者を400人と想定。効率よく患者情報を管理する電子トリアージ(治療の優先度を決めるための緊急度判定)支援システム「3SPiders」を11年に立ち上げ、年に2回訓練している。

仕組みはこうだ。患者の腕にICタグを付け、専用アプリを搭載したスマホに(1)氏名、性別、年齢、血液型などの患者属性(2)傷病名(3)バイタルサイン(4)処置内容(5)トリアージ結果――を入力。確認のためカメラで顔も撮影する。

情報は対策本部が一元管理。東日本大震災の被災地でDMAT活動の経験がある藤見聡・高度救命救急センター長は「災害時はスタッフが混乱し間違いが起きやすい。膨大な情報をリアルタイムで管理するにはITが欠かせない」と話す。

■消防と訓練連携

訓練に力を入れる医療機関も多い。兵庫県の基幹災害拠点病院の兵庫県災害医療センター(神戸市)は県内の消防本部などと連携し、災害時の初動対応訓練を年約20回実施する。中山伸一センター長は「大規模訓練だけでなく、初動対応訓練を日ごろから繰り返している」と強調する。

事務系職員が対象の研修プログラムを開発したのは摂南大学(大阪府寝屋川市)建築学科の池内淳子准教授ら。施設の破損やライフラインの途絶などへの対応をゲーム形式で考える。

「災害時に医療スタッフが治療に専念できるよう事務系職員が果たすべき役割は大きい。想定される事態をイメージすることで対応能力を高めるのが狙い」と池内准教授。昨年10月に山形県立中央病院で初の実証実験をし、今夏には17の兵庫県立病院でも実施する。

◇            ◇

医療拠点 8割近く耐震化 大地震発生を警戒 専門家ら対策提言

大地震など大規模災害が発生した際の医療拠点となる災害拠点病院と救命救急センターの耐震化は着実に進んでいる。

厚生労働省が全国の災害拠点病院と救命救急センターを持つ病院について建物の耐震化率を調べたところ、2013年は回答した計683施設の78.8%となり、05年の43.3%から上昇した。

災害拠点病院は阪神大震災(1995年)を受けて96年から整備が始まった。全国に676施設ある(うち基幹災害拠点病院60施設)。災害時に患者を受け入れ、重症患者はヘリコプターなどで被災地外の医療機関へ搬送する。

重症の救急患者を24時間態勢で受け入れ治療する救命救急センターは271施設ある。

医療や建築の専門家らでつくる日本医療福祉建築協会(東京)は13年、病院が取るべき震災対策「東日本大震災からの10の提言」を発表。(1)インフラ設備の耐震対策(2)地域の組織との連携強化(3)患者の避難・籠城の判断と方法の検討――などを求めた。

提言作成メンバーの一人、国立保健医療科学院の小林健一・上席主任研究官は「南海トラフ地震や首都直下地震など大地震の発生が懸念されており、提言をもとに医療関係者、医療機器メーカー、建築家などに病院の防災について考えてもらいたい」と話す。

(編集委員 木村彰 塩崎健太郎 大西康平)

[日本経済新聞夕刊2015年3月5日付]

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