私たちの足指はどんな働きをしているのか。手の指と比べて短く、家事や仕事に役立つわけでもないが……。
慶応義塾大学病院整形外科(足の外科)専任講師の須田康文さんは「人間の足の指は、二足歩行するようになった段階で、むしろ画期的に進化した」と強調する。立つ、歩く、走るといった動作を、たった2本の足で可能にするのは進化した指のおかげなのだ。
人間の足は、5本の指がバランスよく働いているが、もっとも重要な役割を果たしているのは親指だ。歩いたり、走ったりするとき、地面に最初に付くのは踵(かかと)だ。そして最後に親指にグイッと力を込めて蹴り出すことで、スムーズに移動できる。
この親指の能力に欠かせないのが、指の裏側についている種子骨という小さな骨だ。須田さんは「種子骨は、指に加わる衝撃をやわらげるクッションのような働きを持つともに、親指に筋肉の力がスムーズに伝わるのを助けている」と話す。
だから、様々な原因で種子骨の働きが損なわれると、私たちの歩く機能に支障をきたす。典型的な例がハイヒールを履く女性に多くみられるといわれる外反母趾(ぼし)だ。足の親指が変形して小指側に曲がる病気で、症状の進行に応じて痛みが出る。ついがまんしてしまうことも多いが、それが種子骨の機能を損ねることにつながる。
種子骨は、親指の真下にあって機能するのだが、外反母趾によって指の骨がねじれると、正常な位置を保てなくなる。種子骨が正常に機能を発揮できないときに、「無理して歩いていると、他の指に歩行時の痛みなど障害で出るほか、膝の痛み、腰の痛みなど症状がどんどん広がっていくこともある」(須田さん)。
足指トラブルはほかにもある。例えば、屈み指(かがみゆび、ハンマートゥー)というのは、足の指がギュッとL字型に曲がった状態。大きすぎる靴を履いたときに脱げないように指を踏ん張り続けたりすると指が曲がり、やがてそのまま固まってしまうことがある。
最近研究者が注目している浮き指とは、直立したときに足指が反り返り地面にしっかり着いていない状態のことだ。原因はよく分かっていないが、サンダルなど脱げやすい履物を長期間はき続けたことによる影響などが考えられている。
屈み指や浮き指になると、本来しなやかに動くはずの足指が固まって使えなくなる。これでは親指の種子骨を使って、スムーズに足を蹴り出すという正しい歩き方ができない。膝が痛くて歩けない、ちょっとしたことで転倒するなど、高齢になったとき要介護になるリスクを高めることにもなりかねない。
本来の歩き方を維持するうえで重要なのは、真っすぐに伸び、しなやかに自由に動く足指だ。まずはこれを伸ばして広げる運動をする。足指でグー、チョキ、パーのじゃんけんをする体操があるが、毎日、風呂上がりに少しずつやるだけで、足指が固まりにくくなる。
また、室内など危険のないところで、はだしで過ごすことも大切だ。ソックスやスリッパを使っていると足指が固まったままになってしまうことがある、
5本指の靴下は足の指を自由に動かしやすいだけでなく、皮膚疾患の予防にもつながるという。足白癬(はくせん、水虫)の治療に詳しい仲皮フ科クリニック(埼玉県川越市)院長の仲弥(なかわたる)さんは「水虫は高い湿度の状態が長時間続くと感染しやすい。5本指の靴下は足指の間に湿気がこもらず、足に汗をかきやすい人には勧められる」という。
足の指を広げる健康グッズもたくさん登場しているが、専門家は室内で安静にしているときに使用するよう勧める。足の指に何かをはさんで歩くと、指の関節に余計な負担をかけることがあるためだ。
日ごろはあまり意識することがない足指だが、不調を早期に発見し、ケアを続けることで健康に歩ける足を維持できるようにしたい。
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外反母趾、手術せず改善も
足の指を広げて伸ばす足指体操や健康グッズは上手に活用すれば足の健康アップにつながる。しかし、外反母趾のある人は、その前に整形外科などに相談してみよう。慶応義塾大学病院の須田さんは「足の関節の機能が損なわれている場合、無理な力を加えるとかえって症状を悪化させてしまうこともある」と話す。
整形外科で手術をせずに外反母趾の症状を改善する方法が保存療法だ。ここでも足指ジャンケンなどさまざまな運動療法が指導されるほか、靴の正しい調整法、歩き方のチェックと矯正、足に装着したり靴のなかに入れる装具療法など患者に合った症状改善法を処方してくれる。
(ライター 荒川 直樹)
[日経プラスワン2015年2月28日付]