薫香のカナピウム 上田早夕里著文明のあり方を問うSF

2015/2/26
(文芸春秋・1500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

表題のカナピウムとは「林冠=カノピー」からきている。森林において、樹木の枝や葉の茂っている部分が連続しているところを指す。

 物語の主人公は、地上40メートルほどの樹上で暮らす少女・愛琉(アイル)。彼女の視点にのって、豊かな林冠の生活が紹介される。まるで迫真のドキュメンタリーを読んでいるかのようだが、本書の舞台は、実は現文明が後退した、はるか未来の東南アジアの熱帯雨林なのである。

 いったい人類はどうなってしまったのか。過去に何があったのか。

 愛琉のライフスタイルとそこで起こったできごとから、しだいに人類を含む動植物の未来像が明かされていく。躍動的な展開が快い。

 動植物のおもしろさもさることながら、一族の生活感、文明の遺産との出会い等、秘密が明かされるたびに驚きの世界が広がっていく。これぞまさにSFの快感。目の覚めるような傑作だ。

 少女の冒険の向こう側に地球の生態系への思索が大きく試みられているところも見逃せない。

 自然と人類が対立せずテクノロジーを介して一体となっていく生態系。その洞察には、独特の哲学があり、考えさせられる。

★★★★

(ファンタジー評論家 小谷真理)

[日本経済新聞夕刊2015年2月25日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

薫香のカナピウム

著者:上田 早夕里
出版:文藝春秋
価格:1,620円(税込み)