夢をまことに 山本兼一著鉄炮鍛冶に託す職人賛歌

2015/2/26
(文芸春秋・2200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

最近、年齢とともにとみに涙もろくなっていることは充分(じゅうぶん)、自覚していたが、版元から送られてきた包みをあけて本書が出てきたときには、本当に涙が出そうになった。

 なぜかといえば、ついこの間、他誌で同じ作者による遺作『心中しぐれ吉原』の書評をしたばかりだったからだ。

 昨年刊行された『修羅走る 関ヶ原』といい、どの遺作も“珠玉の”という冠をつけるにふさわしい出来栄えで、作者がどれだけ命のほむらを燃やしてこれらを完結させたかが察せられる。

 今回の主人公は、物づくりに命を懸けた日本のダ・ヴィンチこと、国友村の鉄炮(てっぽう)鍛冶・一貫斎。

 鉄炮鍛冶は初期の『雷神の筒』以来のテーマであり、その意味で、この一巻はそうした路線の集大成といえる。

 但(ただ)し、そこからの拡(ひろ)がりが尋常ではない。この一人の鍛冶の好奇心は、懐中筆、玉燈(ぎょくとう)にはじまって、空気銃や弩弓(どきゅう)を製造。さらには「世の中の人が必要としている物をつくるのが鍛冶の仕事です」と飛行船や潜水艦の製造まで思いをはせる。

 そしてラスト、一貫斎は疲弊した村を自分の発明で救う。物づくりの国・日本の誇らかな職人賛歌だ。

★★★★★

(文芸評論家 縄田一男)

[日本経済新聞夕刊2015年2月25日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

夢をまことに

著者:山本 兼一
出版:文藝春秋
価格:2,376円(税込み)