季節映す野菜の「飾り切り」 食卓華やかに

2013年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された和食。食べる人のことを思い、非日常を演出して野菜などを季節の風物の形に切る「飾り切り」という表現がある。来客時の食卓や行楽弁当でも映える。まずは3月3日のひな祭りの料理に取り入れてみてはいかが。

大切なのは手順と心

ニンジン、キュウリ、かまぼこで飾り切りの初歩に挑戦(東京・神宮前の料理教室「いただきます」)=写真 編集委員 葛西宇一郎

「あー、かわいい」。2月上旬、東京都渋谷区の日本料理教室「いただきます」で開かれた講座の一コマ。講師の西芝一幸さんが野菜やかまぼこで飾り切りの手本を見せると、生徒たちから声があがった。

料理に彩りや華やかさを添えるため、季節感を出す植物や風物にちなんだ形に切るのが飾り切りだ。手の込んだものになるとタケノコを亀にかたどったり、サトイモを菊の花に仕立てたり。懐石料理やすし店などで見かけることが多い。

ただ、手順さえ覚えればさほど難しくないものも多い。この日、教室で生徒らが挑戦したのは簡単な3種類。花形にくりぬいたニンジンに立体的な切り込みを入れる「ねじり梅」、紅白のかまぼこに切り込みを入れてひっくり返す「手綱」、キュウリの切り口を左右対称にするやや難度が高い「切り違い」だ。

横浜市の主婦、松木菜津子さん(39)は「料亭できれいな飾り切りを見たことがある。教えてもらえてよかった」。会社員の梅田紗央里さん(26)は「初めて作ったけれど思っていたより簡単だった」と喜んだ。

飾り切りに接して、心遣いを感じるのは万国共通だ。客の2割が外国人という日本料理一二三(ひふみ)庵(東京都文京区)の女将、近藤陽子さんは、ダイコンやニンジンを薄く切り神社で結ぶおみくじのようにする「祝い結び」などをあしらった料理を運ぶと「日本人の繊細さや季節感が出ていて、目にも楽しいおもてなしの心を感じると喜ばれる」と話す。

一二三庵お稽古さろん(東京都新宿区)では、フランスやシンガポールなどから来たプロの料理人が和食を学ぶ。「刺し身の添えに使う松をかたどった松キュウリなど、いろいろな飾り切りを覚えて帰国していく」(近藤さん)

日本人の中でも、こうした機運がある。ウインナーや果物、色とりどりの野菜を使って飾り付けたデコレーション弁当(デコ弁)やキャラクターを模したキャラクター弁当(キャラ弁)が流行。和食の枠にとどまらない飾り切りの技が改めて注目されている。

お正月やひな祭り、七五三など、「ハレの日に飾り切りを添えて作り手の思いを表現すると食生活が豊かになる」と西芝さん。食卓の会話が弾みそうだ。

いびつでもそれも味

ひな祭りのちらし寿司に取り入れるなら、どんな飾り切りがいいか。京懐石「美濃吉」東武池袋店(東京都豊島区)の総調理長兼支配人、堀本佳彦さんに聞いた。

この時期なら、春にちなんだ花の形がおすすめとのこと。「花れんこん」はその代表で、煮物や酢の物に使える。色鮮やかな「桜にんじん」は円すい形でくぼみがあるため、ワサビ台にもなる。大根でも作れる。「ききょうきゅうり」はいくらやウニを入れれば彩りがきれいなだけでなく、そのままでおつまみにも。「ちょうちんラディッシュ」は紅白の対比が美しく、サラダに使うと映える。

桃紅色が中心部から放射状に入る紅心大根が手に入れば、桜の花びらの形にスライスして取り皿の上に敷くだけで華やぐ。チョウや菊、木の葉など、飾り切りの種類は多数ある。

ちらし寿司の場合は「新鮮な野菜は生でも、苦手な人はさっと湯がいてもいい」と堀本さん。湯がくと食べやすくなるだけでなく、色も鮮やかになる。

ホームパーティーなどでも重宝するとして飾り切りを紹介する本も出ている。上手に切らなくては、と無理する必要はない。堀本さんは「家庭の飾り切りは形がいびつでも、作り手が頑張ったという気持ちが伝わり、むしろ手作り感があって楽しい」と話している。

(畑中麻里)

[日経プラスワン2015年2月21日付]