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「ハイレゾ」驚きの高音質、安上がりな実現に挑戦 古いミニコンポでも臨場感

2015/2/27 日本経済新聞 プラスワン

最近「ハイレゾ」という言葉をよく聞くようになった。CDより音が良いという新しい音楽の聴き方で、対応する配信サービスや機器が増えてきたためだろう。記者(47)はオーディオに詳しくはないが、音楽はそこそこ聴く。どれくらい音が良いのか、簡単に聴けるものなのか、ゼロから試してみることにした。

ハイレゾは「ハイレゾリューション(高精細)・オーディオ」の略で、どんな音源が該当するかは2014年に決まった。音質が良いので1曲のデータがCDより大きく、おもにネットワーク経由で「配信」される。パソコンの専用ソフトウエアや機器などが必要で、CDの手軽さに慣れた身には面倒に思えた。

ともあれ体験してみよう。パナソニックの試聴室を予約し、比較用のCDも持っていった。防音など環境は抜群。1セット約500万円と高価な機器で同じ曲を聴き比べ、素人なりに違いが分かれば……。

結果は「面白い!」。ジャズの女性ボーカルは息づかいや声の響きの奥行きが違い、ピアノトリオの演奏はドラマーの激しい腕の動きまで見えるようだ。CDの音も悪くはないが、ハイレゾに比べのっぺりしたものに思える。

予算に限りがあるが、自宅で楽しみたい。そこで6万4千曲がそろう配信サービス「mora」で、気になる曲をパソコンに取り込んでみた。曲選びや決済手続きもネット通販で書籍を買う感覚。無料ソフト「Media Go」はmoraからの曲をアルバムごとに管理し、再生できる。一連の作業は従来の配信サービスと変わらない。

■配信曲取り込み 時間ロスに閉口

ただ、曲データの取り込みに時間がかかるのには閉口した。家電量販店の試聴機にもある佐野元春「サムデイ」は、演奏時間5分強の曲を落とすのにADSL回線経由で17分近く。待つうちについほかの曲を探してしまい、結局かなりの曲数を買ってしまった。1曲400~500円前後なので注意しなければ。

データを取り込めばすぐ聴ける、というわけでもない。ハイレゾの高音質を楽しむには、パソコンからのデジタル信号をアナログに変換する機器「DAC」が必要だ。

パソコンやiPodなどの携帯オーディオプレーヤーで音楽を聴く際は通常、CDの音を「間引き」してデータ量を圧縮する。間引いた分だけ音は劣化する。そもそも原音をCD化する際も、ある程度割り切って必要な音だけを記録している。対するハイレゾの音質はCDを大きく上回るため、再生にはパソコンやプレーヤーの能力を補う機器や専用の機能が必要になる。

DACは数千円の最も安い機種にするつもりだったが、レジで「ハイレゾの音を再現できるのはこのクラス以上」と1万2000円ほどのものを勧められた。予定外の出費だが、好奇心には勝てない。パソコンのUSBに接続し、自分のイヤホンを挿すと、曲が頭の中に流れてきた。

違いは確かに感じる。楽器の音の余韻や歌声の細部は生々しい。iPod用にデータを圧縮した同じ曲と聴き比べると、楽器の音のひずみやにごりが少ない。ただ「まるで別の曲!」と驚くほどの差があるかは自信がない。機材のせいなのか、耳のせいか。

そこで携帯オーディオプレーヤーやスマートフォン(スマホ)のハイレゾ対応機種なども試した。ハイレゾ音源のおもな聴き方として紹介されている方法だ。結果は、どれもいい音とは思うが、似たり寄ったり。パソコン+DACとそう変わらない。

「何これ」。威力を実感したのは、居間に持ち込んだパソコンをDAC経由でミニコンポにつなぎ、スピーカーで再生したときだ。学生のころよく聴いた曲を再生した瞬間、アーティストがまるで目の前にいるような臨場感を覚えた。20年近く前に買った古いコンポだが、今もこのスピーカーで音楽を聴くことが多い。普段と同じ条件で聴き比べたため、音源自体の音の違いが分かったのかもしれない。

■機器は必要でも 「従来より割安」

オーディオに詳しい評論家の鴻池賢三さんは、ハイレゾの特徴を「鍵盤に爪先が当たる音など小さな音も拾える」と表現する。ハイレゾデータからCD相当の音質に圧縮した音源を作って比べると違いがわかった。CDやそのデータを圧縮した音源が間引いていた音までしっかり鳴らすため、大きな音と小さな音の差が際立ち、録音スタジオやライブ会場さながらの臨場感が味わえるわけだ。

専用の機器が必要とはいえ「これまでの重厚長大な高級オーディオに比べれば安い」(鴻池さん)のは確か。レコードやCDでより良い音を求めるオーディオ愛好家が使う金額と比べれば、ハイレゾは比較的安価に高音質を手に入れることができると言えそうだ。音楽を聴く楽しみがひとつ増え、うれしくなった。

CDやアナログレコードなどとハイレゾを聴き比べ
ハイレゾマークが対応機器にあることを知った

記者のつぶやき
■聴き比べ、発見いっぱい
ハイレゾ音源で配信されているのは1970年代のロックや80年代のJ―POPなど古い曲が意外に目立つ。アナログ盤をまた聴き始めていることもあり、今回はLPとCD、ハイレゾで聴き比べた曲が多い。LPで聞こえる音がCDでは聞こえないなど脇道の発見もあって飽きなかった。これを機に音楽鑑賞に浸るのも悪くない。
CDを買い続けて30年。音楽の聴かれ方もずいぶん変わった。手軽さより音質が注目されるのは80年代の12インチシングル以来かも。ハイレゾはめっきり影が薄いCDに取って代わる本命かもしれない。CDなどの「盤」が消えても紙ジャケットは残ってほしいが。
(編集委員 天野賢一)

[日経プラスワン2015年2月21日付]

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