有明ノリ 大きな干満差が育む毎日日光浴、うま味凝縮

有明海のノリ養殖は10月から3月までが漁期だ

九州の有明海はノリの一大産地として知られる。漁期は晩秋から春先までで、6メートルにもなる海水面の干満差など独特の環境が味わい深いノリを育てる。ノリは熱々のごはんやおにぎりのお供に欠かせない存在。日本一の生産量を誇る佐賀では、県や漁協が品質管理を徹底してブランドを磨き、地元の宿は朝食に質の高いノリを出して本来のおいしさを知ってもらおうと努めている。

佐賀市中心部の旅館あけぼので出される朝食は、焼きノリの香りが漂う。ノリは炭火であぶるための焙炉(ほいろ)に入れて出される。この桐(きり)材の小箱のような焙炉は、同市の名産「諸富家具」メーカーの飛鳥工房が手掛けており、地域の風情を醸し出すのに一役買っている。

焼きノリは焙炉の炭火であぶると味わいが増す(佐賀市の旅館あけぼの)

こだわりのノリは最もおいしいとされる一番摘みを使ったものだ。その年、最初に収穫されたノリで3枚入り。この数にも意味がある。「おかずの種類が多い旅館の朝食で5枚出しても残されることが少なくない。ちょうどいい量に見直す代わりに質を上げた。風味の良さを感じてもらえれば」と音成日佐男社長(66)は話す。

この取り組みは、佐賀県や佐賀県有明海漁業協同組合などが2009年から展開する「焼き海苔三枚」運動で、現在は県内40軒ほどの旅館が参加する。気に入れば買って帰れるように、土産用も開発している。

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有明海はムツゴロウやエイリアンのような風貌をしたワラスボなど、特徴ある生き物も多い。良質なノリが生産される理由は、まず自然環境そのものだ。有明海には大小112の河川が流れ込み、豊富な栄養を運んでくる。淡水と海水が混ざって塩分の濃度が下がり、ノリの「やわらかさ」も生む。

また、最大で6メートルにもなる海水面の干満差から起きる潮流で、栄養や植物の光合成に必要な二酸化炭素が漁場へ行き渡りやすくなる。有明海のノリ養殖ならではといえるのが、1日2回、海面より上にノリ網が出る「干出」だ。干潮時には海面上で太陽の光を浴び、満潮時には海水中で栄養をたっぷりと吸収して、うまみを凝縮していく。

佐賀では古くから品質の管理にも努めてきた。有明海沖を望むと海面から長い棒の柵が無数に林立している。昔は竹だったが、今ではほとんどが耐久性に勝るグラスファイバー製で、養殖網を張るための柱の役割を果たしている。碁盤目状に区画整理を徹底しており、美しく並んで見える。網の数も従来より2割ほど減らして漁場の環境を改善した。

佐賀産のノリ束

入札会では、束になったノリが詰まった段ボール箱を前に、数多くの業者が真剣なまなざしを向ける。同漁協の江頭忠則参事(57)は「例年より品薄感はあるが、全体として品質は高い」と期待する。今シーズンの販売額は210億円を見込んでおり、12季連続で日本一を目指す。

かつては、やわらかい有明海産のノリをおにぎりに巻いて時間がたつと、べちゃべちゃしてしまうので、食べづらいと敬遠された。ごはんとノリを別に包装する技術の普及でコンビニエンスストアで並ぶおにぎりに使われるようになった。それまでの贈答用に加え、新市場を切り開けたこともトップシェアを保つ一因だ。

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ノリ業者も相次ぎ佐賀での事業を拡大している。東京・日本橋室町の老舗、山本海苔店は昨年、佐賀市内に新工場を開設した。藤井祥平取締役(58)は「漁場のチェックがしやすくなり、品質の高いノリの確保にも生かせる」と話す。コンビニなどで販売するおにぎり向けのノリを主力とするヤマコ(愛知県安城市)も吉野ケ里町の佐賀工場を来年8月までに増強して生産能力を高める。

珍しい生ノリを楽しむ取り組みも始まった。やわらかく香り高い生ノリは、保存が難しく、すぐに変色してしまうため、漁師だけが船上で食べていたという。それではもったいないと、初摘みの時期限定で、地元の旅館では、生ノリを吸い物や酢の物にしたり、ワサビじょうゆにつけたりして提供し、新たな魅力を演出している。

<マメ知識>入札最高価格、1枚300円
佐賀県有明海漁業協同組合が共販制度で入札にかけるノリには、100を超える厳格な等級基準がある。漁協に集められたノリは専門の検査員が格付けする。味、香り、色、光沢、形といった品質について最上位の優等、次の特等から七等までの規格と、破れや縮みの有無や程度などの状態を表すものに分けられる。
入札は11月下旬から翌4月ごろまでに数回開かれる。過去最高の入札価格は2007年度に付いた「佐賀海苔有明海一番」1枚(縦21センチ、横19センチ)300円だという。

(佐賀支局長 田中浩司)

[日本経済新聞夕刊2015年2月17日付]