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給食アレルギー事故防げ 配膳に工夫、医師と専用電話 学校の対応指針、国が策定促す

2015/2/13 日本経済新聞 夕刊

学校給食での食物アレルギー事故を防ぐ取り組みが広がっている。アレルギーを持つ子供が増え、教職員や保護者らの意識も高まっているが、必ずしも文部科学省のガイドラインが守られていないケースもある。専門家は「正確なアレルギー情報を把握し、予防策や緊急時の対応を共有する必要がある」と訴える。
アレルギーを考える母の会が企画した研修会では、「エピペン」の使い方の実習も行われた(昨年11月、福島市)

通常の献立は緑色のトレー、アレルギー対応はピンク――。東京都調布市立の小学校計20校では、給食時の配膳にも工夫が取り入れられている。献立表を作る段階から、調理、盛りつけまで、アレルギー症状を引き起こす疑いのある食物が含まれていないか、徹底的にチェックする。

■死亡事故が契機

2013年9月からは慈恵医大第三病院(東京都狛江市)の小児科医と学校をPHSで結ぶ「ホットライン」も設置。食物アレルギーに関する相談体制をつくった。調布市教育委員会の野沢薫副参事は「重大事故につながりかねないヒヤリハット事例の共有もしている」と話す。

調布市では12年、乳製品にアレルギーのある小学5年の女児が給食でチーズ入りのチヂミを食べた後に亡くなった。食べ物で血圧低下や意識消失などを起こす「アナフィラキシーショック」が原因とみられている。

学校給食を巡っては1988年にも、そばアレルギーの小学生が死亡する札幌市での事故があった。その後子供のアレルギーへの関心が高まり、食べられない食材を除いたり、食材を替えたりする学校が増えた。

文部科学省も08年に学校現場向けのガイドラインを作成。学校や調理現場に▽アレルギー対応を踏まえた献立を作成する▽急に発症した場合の正しい対処▽疾患のある児童や生徒を把握する――ことを求める内容だ。

ただ、実際の対応は学校によって濃淡がある。文科省が13年に実施した実態調査では、食物アレルギーのある全公立小中高校の児童生徒は約45万人(4.5%)で、04年の約33万人(同2.6%)から約12万人増えた。しかし診断書など詳しい症状を示す書類を提出していたのは約20%。正確な状況を把握していないことも分かった。

文科省は今春、より具体的な対応指針をつくるよう都道府県教委に通知する。またアナフィラキシーショックを緩和する「エピペン」の使い方を収めたDVDを全小中高校に配布する方針だ。昨年6月に成立した「アレルギー疾患対策基本法」で、適切な医療を受けられる体制づくりなどが基本理念として掲げられたことも対策を後押しする。

■NPOが研修会

学校以外の取り組みも進む。NPO法人「アレルギーを考える母の会」(横浜市)は、無料相談会やエピペンの処方の仕方の研修会などを各地で開催。独立行政法人環境再生保全機構(川崎市)は保護者向けのガイドブックをつくり、ネットで公開している。

ガイドブックの編集に携わった東京都立小児総合医療センターの赤沢晃医師は「自治体ごとに温度差もあり、正しい知識を一般に広く普及させることが今後の課題」と指摘する。

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■子供の診断適切に 専門医ら、負荷テスト推奨

子供の食物アレルギー対策には給食などでの配慮だけでなく、「適切な診断と治療が重要」と専門の小児科医らは口をそろえる。

鶏卵や牛乳、小麦、ピーナッツなど特定の食べ物を食べると、皮膚が赤く腫れたり、喉がいがらっぽくなったり、呼吸が苦しくなったりする。食べ物を「異物」と見なして免疫機構が排除しようとする過剰な反応がアレルギーだ。

多くは0~1歳に発症する。原因ははっきりしないが、免疫に詳しい理化学研究所の大野博司グループディレクターによると、乳児期に食物に含まれるたんぱく質が肌荒れした皮膚から体内に入り、異物として免疫細胞が認識するようになると考えられるようになってきているという。

研究が進むにつれ、診断や治療法も変わってきている。現在検査方法として普及しているのは、血液中に含まれる特定の食べ物に対する「IgE抗体」を調べる方法だ。しかし相模原病院(神奈川県相模原市)の海老澤元宏アレルギー性疾患研究部長は「この抗体があるからといって必ずしもアレルギー症状が起きるわけではない」と指摘する。

昭和大学小児科学講座の今井孝成講師らは、食物アレルギーと診断された場合、実際に食物を食べる食物負荷テストを少なくとも半年から1年に1回受けることを推奨する。乳児期にアレルギーと診断されても鶏卵や牛乳、小麦に対しては「胃腸の消化吸収の働きが発達し、3歳までに5割、6歳までに9割でほとんど症状が出なくなる」(今井講師)。安易に取り除くだけでは、栄養面や生活面での負担が大きい。

治療では、スキンケアや皮膚炎治療が進められる。「皮膚の炎症と腸の炎症には相関性があるとみられる」(大野グループディレクター)。専門医のもと、原因の食物を症状が出ない量を基準にし、ゆっくりと年単位で徐々に増やして食べる「経口免疫療法」も大学病院などで行われる。

専門医らで作る「食物アレルギー研究会」のホームページでは、負荷テストが受けられる病院のリストを公表するなどの情報提供を行っている。

(近藤佳宜、吉野真由美)

[日本経済新聞夕刊2015年2月12日付]

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