御松茸騒動 朝井まかて著ユーモアと風刺かおる狂奔劇

2015/1/29付
(徳間書店・1650円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

香り松茸(まつたけ)、味しめじといっても、年に一度は食べたいのが松茸。直木賞受賞第一作『阿蘭陀西鶴』が織田作之助賞を受賞し、いまや向かうところ敵なしといった朝井まかての最新作は、エスプリの利いたユーモア小説、松茸騒動の一席である。

 尾張藩江戸屋敷の切れ者の藩士・小四郎が、ひょんなことから国許(くにもと)の御松茸同心に左遷されることで物語ははじまる。

 殿様への上納松茸二千本は、とても無理。さまざまな産地偽装、巨額の財政赤字、尾張宗春公の全盛期を忘れられない者たちの幻影までがちらついて、小四郎を苦しめる。

 作者の筆致は、読者を笑わせようと腐心するのではなく、大まじめに書かれているからこそ、爆笑ものなのだ。このユーモアの技巧は、かなり、高等技術といっていいだろう。

 そして、「こんな尾張に誰がした」との名キャッチコピーさながらに、思わずニヤリ。その一方で、御松茸騒動が人と人との絆を結ぶ糧となっていくのは素晴らしい。

 松茸に狂奔する人たちに、ブランド志向の人たちの思いを重ねて一寸、風刺の針をもチクリ。

 心あたたまる会心の一巻といえよう。

★★★★★

(文芸評論家 縄田一男)

[日本経済新聞夕刊2015年1月28日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

御松茸騒動

著者:朝井 まかて
出版:徳間書店
価格:1,782円(税込み)