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エコノ探偵団

道の駅、なぜにぎわう? 地元密着型が繁盛

2015/1/28 日本経済新聞 朝刊

「先日、ドライブ旅行で立ち寄った『道の駅』がすごく混んでたわ。観光名所と間違えるくらい」。近所の主婦の話に探偵、松田章司が反応した。「ブームが続いているようですが、一体どうしてなんでしょう」と調査を始めた。

■特産品、地元もときめく

まず国土交通省の資料を調べた。「道の駅」は主に市町村が国道沿いなどに設置。トイレ・駐車場や情報提供施設、特産品の直売所などの地域振興施設を備えることを条件に国交省が登録を認める。1993年に103カ所で始まり、登録数は現在1040カ所と約20年で10倍以上に増えた。売上高は2012年度で約2100億円に上る。

道の駅に詳しい大阪市立大学准教授の松永桂子さん(39)を訪ねると、「道の駅は島根県掛合町(現雲南市)の『掛合の里』がモデルとされています」と説明。88年開業の掛合の里は地元農産物やレストランを備え、91年に会議や懇親会をする交流施設などが開設し、訪問客を集めた。その後いくつかの地域での社会実験を経て、93年に道の駅が正式に事業化した。「いま各駅は独自アイデアを出し、地域産業振興と交流の拠点となりつつあります」と松永さん。

章司は、人気のある千葉県南房総市の「道の駅とみうら枇杷倶楽部」を訪ねた。年間購買客は約50万人、売上高は約5億円。雇用創出は80人という。「約260年前から栽培するビワのオリジナル商品が人気です。約50種類のビワの加工品を販売し、ビワ狩りなども体験できます」と駅長の鈴木賢二さん(53)。域外の訪問客は約9割に上る。

東京都内から家族4人で訪れた会社員の男性(39)は「道の駅はその土地の特産品が魅力です。きょうは特産のビワを使ったゼリーやカステラを買いました」と答えた。

今度は群馬県山間地の川場村にある「道の駅川場田園プラザ」に向かった。13年度の購買客は約120万人。地元産の野菜直売施設、地元産の材料を使ったレストランやパン工房、大型滑り台など遊具も多い。埼玉県から妻と子ども2人を連れて来た会社員の男性(41)は「ここに来るのが目的でした。子どもの遊び場があり、地元特産品も購入できて良いです」と話した。

「地元産品や施設の集積で様々に楽しめる効果がありそうだが、観光客の存在が大切なのかな」と考える章司に、「実は地元重視の道の駅のほうが収益が高い傾向にあります」と教えたのは法政大学地域研究センターの客員研究員、山本祐子さん(63)。山本さんらの13年の調査では、道の駅の役割を聞かれた440駅のうち「周辺住民への食材の提供」と答えた171駅は、売り上げが他駅の1.5倍程度だと推測されたという。

章司は経営ノウハウについて聞こうと山口県に飛んだ。萩市の「道の駅萩しーまーと」駅長、中沢さかなさん(57)を訪ねた。民間出身で売上高10億円超を達成、県外の道の駅作りにも参加する。「平日やオフシーズンを考えると地元の支持が不可欠です。それには地元食材が重要です。生産履歴の点で地物は信頼が高く、当駅は隣りの市場の新鮮な魚や野菜など地物シェアは8割。東京などにも出荷しますが、訪問客の5割は萩市内からです」と中沢さん。

■老朽化、資金不足が課題

「経済学ではどう考えるのか」。章司は経済産業研究所長の藤田昌久さん(71)を訪ねた。「経済学では差別化した商品は、作れば作るほど利益が出る『規模の経済』が働くと考えます。人口の少ない農山漁村でも差別化商品は都市の需要を取り込み、収益性が上がります。都市で消費する場合は輸送費、道の駅の場合は訪問客の移動費がかかりますが、価格が多少上がっても需要が確保できます。旅行ついでに立ち寄る人は移動費をほぼ無視でき需要拡大が見込め、地元消費者も同様に経済的メリットが大きいでしょう」と藤田さん。

調べると、最近は福祉施設や防災拠点としても期待されていた。京都府南丹市の「道の駅美山ふれあい広場」には診療所や市の保健福祉センターが併設。同センターで介護サービスを受ける女性(88)は「地元の野菜を買うことも多く、便利です」。周辺に小売店が一つもなく、地域の拠点の役割を担う。岩手県山田町の「道の駅やまだ」では東日本大震災の教訓から、現在、新たな休憩施設や備蓄倉庫をつくる計画だ。

課題も多い。一般財団法人地域活性化センターによると道の駅の設置費用は、2億円未満の道の駅が全体の22%を占めるが、平均7億円で、20億円以上の事例も6%。国道沿いでは国交省の予算が入ることが多いが、駐車場など使途は限られる。地域振興施設については農林水産省の補助金・交付金を受ける駅が全体の62%を占めるが、あくまで整備費。維持管理への国費投入はほとんどないとされる。

道の駅に助言するグランデザイン(東京・港)社長の黒田浩介さん(46)は「施設の老朽化で大規模な修繕や建て替えが課題ですが、市町村合併で1市町村に複数の道の駅を抱えるところも少なくありません。資金不足や費用対効果から閉鎖という選択肢もあるでしょう」と指摘した。

事務所で報告を終えた章司が「我々も差別化をしないと淘汰されますね」と話すと、所長が一言。「それは君たちの調査次第じゃないか」

◇            ◇

■運営者選定に合理性を

道の駅には「民業を圧迫する」との批判が出ることがある。地元商店街のシャッター通り化を促す恐れも指摘される。

道の駅は市町村が設置する。一方、運営そのものは市町村が指定した企業や団体が担う場合が多い。一般財団法人地域活性化センターの2012年の調査では、「指定管理者」と呼ばれる企業や団体が運営する道の駅は全体の70%に達した。

だが道の駅の指定管理者は、自治体が全額を出資する企業や、一部を出資する第3セクターであることが少なくない。運営も「官」が担っているとみなされがちだ。

このため、道の駅側が地元商店の店舗案内やオリジナル商品の共同開発を進めるなど、地域全体の振興を図っている事例もある。

公共経済学が専門の早稲田大学の須賀晃一教授(60)は「大事なのは運営主体の選定の透明性」と指摘。その上で「不採算を見込んで民間が参入しない場合などは官が担うことは合理的だ。ただ市場が拡大し、民間の参入希望者が増えた時は民間への全面移譲を含め、どのように民間に手放すかを判断することが重要だ」と指摘する。

経営良好な道の駅では売上金の一部を自治体に寄付するところもある。自治体財政を下支えし、福祉充実など地域行政に役立てることも期待されるが、その設置・運営には合理性が求められる。

(経済解説部 福士譲)

[日本経済新聞朝刊2015年1月27日付]

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