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毎日「指先体操」脳を活性化・準備いらず

2015/1/27 日本経済新聞 朝刊

手は「外部の脳」「第2の脳」と呼ばれ、指先を動かせば脳にたくさんの刺激が伝わる。寒さでかじかむ冬場は指先を動かすのが面倒になりがちだが、少し複雑な指先の運動を心がければ、血流がよくなる。大脳の活性化によって「認知症予防につながる効果が期待できる」との専門家の意見もある。大がかりな準備は不要で、高齢でもちょっとした時間を使い実践できる。

コロコロコロコロ……。1月中旬、都内で開かれた東日本旅客鉄道(JR東日本)の会員向けカルチャー教室「気晴らし健康講座」。約20人の参加者が2個のクルミを手のひらで転がしていた。指先を器用に使うことで手や指に刺激を与える狙いで、70代が中心の参加者は楽しみながらこうした「指先体操」に取り組んだ。3年近く指先体操を続けている70代主婦は「リラックスできて、体がすっきりする」と満足そうだった。

■座りながらOK

都内で開かれた指先体操教室

講師を務めるウォルナッツ・健康生活研究所(東京・板橋)の堤喜久雄所長が時折ジョークを交え、和やかな雰囲気で講座は続く。座りながら気楽にできるので、高齢者は体に負担をかけず長く続けられるのが特徴だという。「最近は介護士や病院関係で働く人など、30~40代も見かけるようになった」と堤所長は話す。講座で体操のやり方を覚え、老人ホームなどで実践する人も多いという。

体操のやり方は簡単なものから複雑なものまで、種類がいくつもある。基本的なものでは、両手の指を曲げ伸ばす体操がある。手を広げた状態でまず親指からしっかり折り曲げる。全部の指を曲げ終わり「グー」の状態にした後は、小指から順にリズムよく伸ばしていく。片方の手だけ指を遅らせて動かす方法もある。

動作が難しくなれば、より脳の活性化が期待できるという。例えば「指先マラソン」だ。まず右手の人さし指と左手の親指、右手の親指と左手の人さし指をそれぞれ合わせて、長方形をつくる。次に右手親指と左手人さし指を離して、それぞれ反対の方向に回転させ、また指を合わせて長方形をつくる。こうした動作を30~60秒ほど繰り返す。

■早口言葉一緒に

これらの動作はまだ序の口だ。いろいろな人が考案したものを含めると指先体操の種類は数え切れないほどだ。動作が複雑な体操を、自分で考えながらこなすと効果的という。複雑でなくても、指を曲げるごとに回数を数え、その際に単位を「1回、2個、3人」といった感じで変えていく方法もお勧めだ。「早口言葉と組み合わせたりすると脳への刺激も大きい。工夫すると長続きしやすい」(堤所長)

指には脳につながる神経が多い。指をフル活用した体操は脳の血流量の増加を促し活性化する。体操を通じて、記憶や学習をつかさどる大脳の「前頭前野」、運動の命令を出す「運動野」、位置情報を判別する「頭頂葉」など脳の広い領域で普段より活動が活発になることが期待される。

杏林大学医学部の古賀良彦教授は指先体操について「認知症の進行を食い止めたり、予防に役立ったりする可能性がある」と解説する。脳の活動を計測する光トポグラフィーという装置で健康な男性の脳を調べたところ、指先体操中の前頭前野の血流量が平常時より増えていた。

古賀教授は「指先体操は体への負担が小さいので高齢者に向いている。毎日やるのが大切だ」と継続の必要性を説く。1日10~20分程度なら散歩や仕事の合間でもできる。家族や友人とともにゲーム感覚で体操すれば、1人でするより長く続けられるはずだ。

ただ、指先体操だけ実践すれば、健康な生活を送れるというわけではない。古賀教授は「睡眠や食事を十分にとる生活習慣が大切だ」と話す。そのうえで指先体操を取り入れて脳の活性化を目指そう。高齢者だけでなく、若い人が挑戦してみるのもよい。簡単そうに見えて結構難しい。

現代人はパソコンやスマートフォン(スマホ)などの操作で指先をよく動かすが、指先体操のような効果はあるのだろうか。「脳は活性化するが、目が疲れたり肩が凝ったりする弊害も出る」(古賀教授)。こちらはほどほどにした方がよさそうだ。

(山本優)

ひとくちガイド
《本》
◆指先体操の方法を学ぶには
「ユビで脳トレ」(堤喜久雄著、サンクチュアリ出版)
◆脳の構造や活性化の方法などを知るには
「いきいき脳のつくり方」(古賀良彦著、技術評論社)

[日本経済新聞朝刊2015年1月25日付]

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