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鳥取、幻の「モサエビ」 全国統一の野望 強い甘み口中で大暴れ

2015/1/21 日本経済新聞 夕刊

幻の猛者(もさ)――。山陰・鳥取には、こんな称号を頂くエビがいる。地元で「モサエビ」と呼ばれるエビだ。ぷりぷりとした食感に強い甘みが特長だ。半日もすれば頭部が黒くなるなど傷みが早く、ほとんどが鳥取で消費されてしまう。9月から翌年5月までが漁期。ズワイガニ漁との関係で1月の水揚げは少ないが、2月半ばから増えて旬を迎える。

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ジオパーク産の石の上で蒸し焼きされたモサエビは、しっかりした甘みがある(鳥取県岩美町)

鍋のふたを開けると、湯気とともに立ち上がる香ばしいエビの香り――。貴重な地形や地質を持つ「山陰海岸ジオパーク」の浦富海岸を巡る遊覧船乗り場の食事どころ「あじろや」(鳥取県岩美町)で、モサエビの「ジオれき焼き定食」を頂いた。ジオパーク産の石の上に、大正エビ程度の大きさのモサエビを並べ、ほうろく鍋で蒸し焼きにした名物料理だ。

熱々のエビから頭を外し、殻をむいて身を口に運ぶと、香ばしくぷりっとした食感とともにしっかりした甘みが口に漂う。甘いが、すしネタで人気の甘エビのようなくどさはない。「是非ミソも食べてみて」という同店責任者の川口江美子さん(48)のすすめもあり、頭のミソをすすった。ミソが持つ磯の風味とともに、こちらもほんのりとした甘味が口に広がった。

モサエビの正式名は「クロザコエビ」。山陰沖のほか、北陸や近畿の日本海側などで水揚げされ、場所によって「ドロエビ」「ガラエビ」「ガサエビ」などと呼ばれる。モサエビは山陰独特の呼び名とされ、ごつごつとした見た目の武骨な印象が猛者と呼び習わされた、という説もあるが、地元でも正確な由来は不明とされている。

モサエビは半日もすると頭部の黒変が始まる

海水温5度程度、水深200~250メートルの深海域に生息していることもあって、水揚げ後、半日もすれば頭部が黒くなり始める。傷み具合にもよるが、決して食べられないわけではなく、鳥取市内のすし店「笹すし」にはたまに「頭が黒くなったころに刺し身で食べたい」という指名客も来るという。甘みが強くなるそうだ。大将の稲田義人さん(40)は「決してお薦めはしません。傷みが気になる場合、味噌汁にして味わってほしい。奥深いだしがでますよ」と付け加える。

知名度が向上したのは1990年代後半、岩美町が特産品として売り始めてからだ。以来、生息域と同じ海水温に保てる冷水機が漁船に搭載され、新鮮な状態での水揚げが増加。鳥取県内の料理店などにも並ぶようになり浜値(港での卸値)もあがった。岩美町役場によると、かつて浜値で箱1つ(約3キログラム)2千~3千円だったものが、現在は1万~2万円程度まで上がっているという。

浜値の上昇は、図らずもモサエビの幻度を上げている。鳥取県漁業協同組合網代港支所の諸家仁さん(43)が「新鮮なエビを関東や関西に卸しても、今ならば1匹200円程度が相場となっている。飲食店がお客さんに出すとなると、輸送費も考えて2~3倍の価格にせねば利益が出ず、エビ1匹には出しにくい値段となる。そのため冷凍品以外の県外への流通は少ない」と教えてくれた。

幻と呼ばれる由縁は、傷みが早いことや値段だけではない。それには山陰の冬の味覚の王者、ズワイガニの漁期が関係する。モサエビは底引き網漁で捕られるが、鳥取の底引き網漁船のほとんどは冬場、ズワイガニを狙う。ズワイガニは資源保護の関係から網の目が荒く、モサエビはほとんどが網の目をすり抜けしまい、水揚げが減るのだ。「やはり猛者より王者ですかね」と諸家さん。

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土産物やB級グルメへの展開も始まっている(鳥取市の道の駅「神話の里 白うさぎ」)

旬以外にモサエビを味わうならば、モサエビを使った土産品やB級グルメを選ぶのも一法だ。因幡の白ウサギ伝説の地にある「道の駅 神話の里 白うさぎ」(鳥取市)には「もさえびチップ」や「もさえびせんべい」が売られている。飲食ブースには、モサエビかつを使った「もさバーガー」もあり、独特の甘みを味わえる。

鳥取のご当地食材として確かな地位を築いたモサエビ。鳥取県食のみやこ推進課の中原美由紀課長は「鳥取のがんばり次第で、各地で異なる名前も『モサエビ』に統一できると思っている」と明かす。猛者の全国統一はなるのか。

<マメ知識>タウリンを豊富に含む
「食べると元気になるエビ」。鳥取県水産試験場の研究から、モサエビのこんな実態が明らかになっている。
モサエビに含まれるアミノ酸の一種「タウリン」は、肉100グラムあたり約160ミリグラム。これはホッコクアカエビという一般的な甘エビの3.5倍。脂肪酸の一種ドコサペンタエン酸もエビ類の中で高いという。
同試験場の志村健主任は「タウリンは栄養ドリンクの主成分。これらが『甘エビよりも甘い』という味覚評価にも関係しているようだ」と話している。

(鳥取支局長 船越純一)

[日本経済新聞夕刊2015年1月20日付]

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