
からすけ 「揺(ゆ)れに強い」という広告が付いたビルやマンションも増えてきた気がするね。普段(ふだん)あまり気にしないけど、技術はどこまで進んだんだろう。
揺れに強い工法を開発
イチ子 世界有数の地震国といわれる日本では1年に何回地震があると思う?
からすけ そうだなあ、500回くらいかな?
イチ子 2014年は震度1以上の地震が2000回を超えたそうよ。最も大きかったのは11月に長野県北部を震源として起きた地震で、最大震度6弱を観測したの。
からすけ 想像がつかないよ。怖(こわ)かっただろうね。
イチ子 気象庁は震度0から震度7までの10段階で揺れの大きさを発表しているの。震度5と6には「強」「弱」の2段階があるわ。震度6弱は「立っていることが困難」「固定していない家具の大半が移動する」レベルね。
からすけ 20年前だから僕(ぼく)は生まれてないけど、阪神大震災は震度7だったの?
イチ子 そう。ただ、当時は観測をする人が感じた揺れや、建物の被害状況を確認してから震度を決めていたの。阪神大震災が起きた後、より早く正確な被害状況を知るために、機械計測による判定と「強」「弱」のような細かい震度基準が導入されたのよ。
からすけ どの地域がどのくらいの被害を受けたのかがすぐわからないと、救助もできないもんね。
イチ子 阪神大震災では多くの建物や鉄道、道路が崩(くず)れて、たくさんの犠牲者(ぎせいしゃ)が出たわ。揺れに強い建物やインフラづくりに対する意識が高まるきっかけになったの。
からすけ 地面が揺れるから、その上に造る建物はどうしても揺れてしまうよね。どんな仕組みなのかな。
イチ子 建物にどのくらいの強さが必要かは法律が定めているけど、さらに安全を考えた耐震(たいしん)技術(ぎじゅつ)(キーワード)には主に耐震、制震(せいしん)、免震(めんしん)の3つがあるわ。耐震は建物の柱やはりの強度を高める方法。制震は揺れを吸収するダンパーなどと呼ばれる器具を取り付ける方法。学校の外の壁に取り付けられているのを見たことはない?
阪神大震災 起きたのは1995年1月17日早朝で最大震度7。死者約6400人、負傷者約4万3800人の被害をもたらした。
耐震技術 地震が起きたときに建物などへの被害を抑える技術。住宅メーカーや建設会社が開発を進めている。
からすけ ああ、工事を見たことがあるよ。
イチ子 建物を全部造り直すのは難しいから、補強工事をしていたのね。もう一つの免震は、高層ビルやマンションと地面の間に専用の装置をはさんで、地面が揺れても建物が直接揺れないようにする方法ね。12年に開業した東京スカイツリーは、揺れるタワーと異なる方向に動く装置をつけて全体の揺れを抑えるの。様々な技術が開発されているわ。
新幹線ストップ より早く
からすけ 11年の東日本大震災も最大震度は7だよね。建物は大丈夫でも電気や水が来なくて生活がしばらく大変だった人も多かったよね。
イチ子 そうだったわね。その教訓から、最新式のビルやマンションでは建物の中に小さな発電機能を備えたり、井戸のような貯水施設(ちょすいしせつ)を設けるケースも出てきたわ。
からすけ 大きな揺れや停電まで起きたのに、新幹線は大事故を起こさなかったよね。すごいと思ったなあ。
イチ子 新幹線には揺れが来る直前に伝わる小さな波動(はどう)を瞬時(しゅんじ)に計測して、高速で走っている列車の自動ブレーキをかける仕組みがあるの。線路が大きく揺れ始めてしまってからでは遅いから。今では数秒で列車を止める判断ができるようになったのよ。
からすけ ところで、また大きな地震が来るのかな?
イチ子 日本で今、心配されている地震の一つが南海トラフ地震。東海地方から九州地方にかけての深い海底で起きる可能性がある地震だけど、太平洋側のほとんどの地域に影響が出て、最大30万人以上の死者が出るという予測があるの。建物が崩れるだけではなく、大きな津波(つなみ)や火災も怖いわ。
からすけ 東日本大震災以上じゃないか。
イチ子 だから政府は対策を急いでいるの。建築技術はもちろん、地域の防災組織への参加や家具の固定も呼びかけているわ。家庭で準備できることも多いの。
からすけ 携帯電話(けいたいでんわ)には地震発生を伝える速報メールが来るんだよね。普段から地震への意識を高めないとね。
イチ子 残念だけどいつか災害は起きる。その時の被害を少しでも減らす「減災」という考え方は、ますます重要になるはずよ。

被災体験、ゲームで共有
阪神大震災の経験から、揺れに強いビルなど技術の備えはさらに進みました。しかし実際に被災してしまったら、避難所(ひなんじょ)などに居合わせた人たちはギリギリの状況で、限られた選択肢(せんたくし)から判断を迫られるようなケースが出てきます。私たち一人ひとりにも心の準備が必要なのです。
「クロスロード(分かれ道)」という防災ゲームをご存じでしょうか。「3千人いる避難所に2千人分の食料が届いたが、以後の見通しは立たない。食料担当者は食料を配るか」――。こうした難しい問題にYESかNOか、チームで答えを出します。正解はありませんが、どのように考えたのか、そのプロセスを共有することが目的です。阪神大震災の災害対応にあたった神戸市職員の経験から生まれたこのゲーム、現在は多くの学校で教材として使われています。
[日経プラスワン2015年1月17日付]