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納豆汁 雪国・秋田のごちそう 栄養満点 芯から温まる

2015/1/14 日本経済新聞 夕刊

正月に食べる汁物といえば全国的に雑煮が主流だが、秋田県南部の内陸部では納豆汁が定番の一つだ。家族が集まり、大きな鍋で納豆汁をつくり三が日の間続けて食べる習慣が残っている。納豆汁は岩手、秋田、山形など東北の広い範囲で食べられ、山形県の北部では七草がゆの代わりに食べる地域もある。寒い冬場に体を温め、たんぱく質などの栄養分を補う雪国の家庭料理だ。

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秋田県南部では稲作を終えた冬場に納豆を作る農家が多かった。農家は水田の端で大豆を栽培しており、煮た豆をわら筒に入れて蒸していたという。「逆さにした臼や土を掘るなどして作った空間にわら筒を入れた。豆には鉄瓶で湯を沸かし蒸気を当てていた」と話すのは納豆製造大手のヤマダフーズ(秋田県美郷町)の山田清繁会長(74)。同社の創業も農家の副業として冬場に納豆を作り始めたのがきっかけだ。納豆のほかにも味噌などの発酵食品づくりが盛んだ。

「和台所 花」では納豆汁定食は人気メニュー

「納豆発祥の地」を名乗る地域は全国にあるが同県横手市もその一つ。地元に残る説によると、この地が舞台となった平安時代の後三年の役(1083~87年)の際、源義家に農民が豆を煮て稲わらで包み、兵糧として届けた。馬の背にくくり付けた煮豆は数日後には変色して、糸を引き独特の香りを漂わせるようになった。捨てるのはもったいないと食べてみると、思いのほかおいしかったという。このため農民は自ら納豆を作るようになったとされる。横手市の金沢公園には「発祥の地」の記念碑が建てられているほどだ。

納豆汁について「納豆はすりつぶすのは手間がかかる」と話す藤沢進朗さん

納豆汁の具や作り方に多少の地域差はあるが、秋田南部では味噌仕立ての汁に山菜やキノコを具として使うのが基本。納豆はすり鉢でペースト状にすりつぶして入れる。キノコはサワモダシ(ナラタケ)やアミタケ、ナメコなどで山菜はワラビやサクなどを使う。山芋や豆腐、油揚げやニンジンなどが入る。

大仙市で納豆汁をメニューとして提供している「和台所 花」の藤沢進朗さん(49)は「納豆をすりつぶすのが手間がかかる。かき交ぜるようにすると糸を引いてすべる。大粒の納豆を一粒一粒つぶすようにするのがコツ」と話す。家庭で作る際には、納豆をつぶすのは子どもの役割だったと説明する。

見た目には納豆が入っているようには見えないが、口にすると普通の味噌汁より濃厚で、特有のにおいも感じる。味噌汁よりも冷めにくいため、冬場に体を温めるのにはぴったりだ。藤沢さんは「もっと濃くしてほしいと頼まれることもある。家庭で食べる場合も1日目よりも2日目、3日目と味の変化があって飽きない」と話す。

山菜やキノコなど具だくさんだ

山菜やキノコは春や秋に採ったものを塩蔵しておき、納豆汁を作る際に塩抜きをする。手間がかかり具だくさんなため、冠婚葬祭など晴れの日の食事として定着したという。

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とはいっても、納豆を自宅でつくることもなく、山菜を塩蔵する習慣もなくなってきたため、家庭で納豆汁を食べる機会も減ってきたという。

そこで2008年に大曲商工会議所(大仙市)の青年部が中心になって研究会をつくり納豆汁を街の活性化に生かそうと動き出した。研究会代表の辻卓也さん(46)は「当初は田舎料理を地域の代表的料理にするのは恥ずかしいと反対の声もあった」と話す。そこで全国各地から鍋料理を競い合う山形県天童市の「平成鍋合戦」に同年12月に初参加して優勝を飾った。

イベントへの参加を続けるうちに賛同の声も増えてきた。「うちのばあちゃんの味に比べたらうまくないと叱られることもある」と辻さんは笑う。現在は市内の十数店が認定店として提供している。キムチ味など独自にアレンジした納豆汁や、つぶした納豆と山菜を生かしたラーメンなどの新しいメニューもある。

こうした活動もあって、納豆メーカーが納豆汁の素を売り出し、地元の食品スーパーが納豆汁の具材を集めたコーナーを冬場に設けることも増えているという。雪国ならではの知恵と家庭の味の魅力が見直されてきている。

<マメ知識>俳句では冬の季語
納豆といえばご飯にのせて食べるのが現在は主流だが、江戸時代には納豆ご飯よりも納豆汁の方が多く食べられていたという。徳川家康、秀忠、家光の3代に側近として仕え108歳まで生きた天台宗の僧、天海が好んで食べたと伝えられる。
俳人の与謝蕪村は寒い朝の情景を詠んだ「朝霜や室の揚屋の納豆汁」などの句に登場させている。室は瀬戸内の港の室の津(兵庫県たつの市)を指しており各地で食べられていたことがわかる。納豆汁は俳句においては冬の季語とされている。

(秋田支局長 曽我真粧巳)

[日本経済新聞夕刊2015年1月13日付]

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