「作家とアトリエ展」芸術家たちの小宇宙

2015/1/12

芸術家にとってアトリエは単なる「作業場」などではない。たとえば南フランスにあるセザンヌのアトリエが聖地のように人を集めるのは、そこに立つだけでセザンヌがどのようにリンゴや水差しを愛(め)で、絵筆を走らせたかが伝わってくるからである。

茨城県近代美術館で2月15日まで開催中の「作家とアトリエ展」は、そんなひそやかな創作の場と芸術家の関係に着目した展覧会だ。所蔵作品を中心に日本画家の横山大観や近代洋画の雄、黒田清輝、フランス印象派のピサロ、現代美術家の河口龍夫らを取り上げて、作品のほか制作中の写真、アトリエに置かれていた家具類も一部展示。アトリエという芸術家たちの小宇宙を浮かび上がらせている。

17歳で結核を患い、37歳の若さで亡くなった洋画家の中村彝(つね)(1887~1924年)にとってアトリエは世界のすべてであったにちがいない。金策に駆けずり回り、現在の東京・下落合に小さな家を建てたのは29歳のとき。関東大震災後、自らを奮い立たせるようにして描いた「カルピスの包み紙のある静物」を愛用の椅子などと見比べれば、息をつめて制作に励む画家の姿がありありと思い浮かぶ。

茨城県の牛久で農業のかたわら絵に励んだ小川芋銭(うせん)(1868~1938年)。「湖上迷樹」は漁師に聞かされた蜃気楼(しんきろう)の話に着想したという幻想的な作品だ。

雑然とした畳敷きの居室に正座し、紙の上にかがみこむようにして制作する写真が残されているが、想像の世界に没頭しているようにも、虚心に紙と向き合っているようにも見える。紙をねかせて筆をおろす日本画と、カンバスを立てる油彩画との違いにも改めて気付かされ、興味をそそられた。

(編集委員 窪田直子)