キャプテンサンダーボルト 阿部和重、伊坂幸太郎著「完全合作」で戦後日本を戯画化

2014/12/22

純文学の阿部和重と、エンターテインメントの伊坂幸太郎の「完全合作」である。物語の舞台は阿部の故郷の山形と、伊坂が住む仙台だ。

(文芸春秋・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 相葉時之は借金で首がまわらなくなっていた。山形市のホテルで、詐欺師から金をまきあげる計画をたてるものの、屈強な外国人たちに襲われ、相葉は仙台に逃走する。そこで相葉は小学時代、同じ野球チームにいた井ノ原悠と再会する。

 実は井ノ原もまた子供の治療費で困りはて相葉の儲け話にのる。だが事件の奥は深かった。

 発端は一九四五年三月十日、東京大空襲の夜に蔵王に墜落したB29で、後に公開中止になった幻の映画も絡んでくる。

 山形県人の評者からすると、東京大空襲のときにB29三機が飛来して蔵王連峰に墜落した事実から広げる大風呂敷に苦笑いし、謎の感染症のワクチン接種が義務づけられたという辺りから唖然(あぜん)となるのだが、しかし呆(あき)れつつも笑い、笑いながら乗り出して夢中になっていく。とんでもない方向へ展開する話にわくわくしてしまうからだ。

 二〇一三年七月の日本を舞台にしているけれど(楽天イーグルスの田中の活躍が何回も語られる)、浮上するのは日本軍と米軍の陰謀。戦時中と占領下の日本の歴史的背景をもとにしながら、幻の映画「鳴神戦隊サンダーボルト」を絡めて、戦後日本の精神風土を戯画化する。このメインプロットは、スパイ養成塾にいた男がプルトニウム爆弾の在りかをめぐって苦闘する『インディヴィジュアル・プロジェクション』や、自衛隊駐屯地の町の戦後を俯瞰(ふかん)する『シンセミア』の阿部和重だろう。

 そして、小悪党相葉と子供の治療費に腐心するサラリーマン井ノ原の物語は伊坂幸太郎だ。相葉と井ノ原は少年野球チームのメンバーだったが、少年時代に事件が起きて仲違(たが)いしていた。偶然再会して協力しながら、起死回生の資金調達を夢見るという脇筋。それ以外にも複数の脇筋があり、いつものことながら巧みに伏線を張りめぐらして、最後のほうですべて回収するという仕掛けだ。

 インタヴューを読むと相手の文章に直しをいれて二人の文体を作り上げたようで(だから「完全合作」)、実際何とも不思議な魅力の結合と溶解感がある。阿部和重ならもっとパルプ・ノワール的に、伊坂幸太郎ならもっと軽妙な群像劇になっていただろうと思わせる部分もあるが、それでもラストは、二人のどの作品よりも明るいものになっていて、ファンならずとも必ずや満足するのではないか。

(文芸評論家 池上 冬樹)

[日本経済新聞朝刊2014年12月21日付]

キャプテンサンダーボルト

著者:阿部 和重, 伊坂 幸太郎
出版:文藝春秋
価格:1,944円(税込み)

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