国立劇場「伊賀越道中双六」好配役でよみがえる名作

「伊賀越道中双六」は「沼津」の場が有名だが、実は次の「岡崎」が全編の中心となる。名作といわれながら今回が戦後3回目の上演という難物とされている。しかし、戦前には当代の祖父・初代吉右衛門が8回も演じており、吉右衛門としては熟成の時を待っての懸案であった。果たして配役に適任者を得たのと一座のチームワークの良さとで、当代の歌舞伎としてあたうる限りの成果を挙げた。

分けても特筆すべきは最大の難役・山田幸兵衛を高水準で演じきった歌六だろう。主役の政右衛門より年配・人物共に一枚上を行くことが求められるが、吉右衛門を相手に見事に勤めた。敵討ちをめぐって敵味方となる人間関係の非情さを浮き彫りにしたところに、この劇を現代に演じる意味が鮮明になった。政右衛門が幼い我が子の首を切るという不条理を逃げずに演じきったればこその成果であり、上演を妨げていた一因である残酷という非難を越えたともいえる。東蔵の幸兵衛女房おつや、芝雀の政右衛門女房お谷の好演も見逃せない。

「岡崎」を中心に序幕「行家(ゆきえ)屋敷」、二幕目「誉田家(こんだけ)城中」から大詰「伊賀上野敵討」まで通しの形で並べた上演脚本が、政右衛門がお谷を離縁する「饅頭(まんじゅう)娘」の場を欠くのは上演時間の制約ゆえだろうが、「行家屋敷」にお谷を出し、人物関係を明確にしたのは成功だった。

「岡崎」の前段「藤川新関」でのチャリ役・助平を又五郎が好演、菊之助の志津馬の二枚目ぶりも水際立つが、米吉のお袖が時分の花を開花させる寸前の初々しさで、まさに絶妙の巡り合わせ。敵役・股五郎の錦之助が役の輪郭をくっきりと描き出したのは腕を上げた証拠。26日まで。

(演劇評論家 上村 以和於)