また、虫垂炎と思って受診したら他の病気だったというケースもある。「医師は大腸の病気などを疑う必要がある」と黒柳部長は指摘する。その1つが大腸憩室炎だ。大腸の壁の一部が外に飛び出した憩室という場所に炎症が起きてしまう。腹痛や発熱があるなど、症状が虫垂炎と似ている。

成人は大腸がんが隠れているケースもあるので要注意だ。虫垂が糞石ではなく、がん組織でつまり炎症を起こす。初期症状は虫垂炎とほぼ同じだが、詳しく検査すると大腸がんが見つかることがある。

病院では、成人の虫垂炎が疑われたらコンピューター断層撮影装置(CT)を使って検査するのが一般的だ。黒柳部長は「もし大腸がんの可能性を疑うのであれば大腸内視鏡の検査を受けた方がよい」とすすめる。年をとれば重い病気が潜んでいる可能性が高くなる。腹部にいつもと違う異変があれば詳しく検査してもらうとよいだろう。

虫垂炎が引き金となって発症する病気もある。その代表的なケースが腹膜炎だ。虫垂がやぶれて腹腔(ふくくう)にウミなどが散らばって炎症を起こす。我慢できないほどの強い痛みに襲われ、血圧が急激に下がるなどしてショック状態になり、意識を失うこともある。最悪の場合は敗血症で死亡する恐れもある。体力が弱い高齢者は注意が必要だ。

虫垂がやぶれても腹腔全体には細菌が広がらない「限局性腹膜炎」になる患者もいる。この場合は小腸などが壁となりウミの散乱を防ぐ。通常の腹膜炎と違って痛みは我慢できるレベルが多いという。腸閉塞になって見つかることもある。

■切除不要な症例も

虫垂炎の治療は、腹部を切る範囲が小さい内視鏡手術による切除が大半だ。手術後1~2週間で退院できるが、軽症だと翌日に退院となる場合もある。最近は抗生物質の投与で症状の悪化を防ぐ手法も増えている。黒柳部長は「診断技術の進歩によって、最近は切らずに済む虫垂炎が判別できるケースが多くなった」と話す。

虫垂はこれまで切除しても特に影響はないと考えられてきたが、虫垂には隠れた大切な役割があるとの研究も報告されている。免疫学が専門の大阪大学の竹田潔教授らは、虫垂が腸に免疫細胞を供給し腸内細菌のバランスを維持するのに役立っていると、マウスの実験で突き止めた。潰瘍性大腸炎などの治療法の開発につながる可能性があるとみている。

実際に切除した人も問題なく生活しているが、これまでの常識の「盲点」を突く成果かもしれないと感じた。

(山本優)

[日本経済新聞夕刊2014年12月5日付]