残業なぜ減らない 業績との相関はなし

「政策面で改善できることはあるのかしら」。明日香は6月の成長戦略以降、議論されているホワイトカラー・エグゼンプションを調べた。「労働時間の長さと賃金のリンクを切り離す制度か。一方で残業が際限なく増えるのではという声もあるようね」

明日香が再び浜口さんに聞くと「もともと法定時間内の労働に対する支払い方は自由です。残業代以外も時間にリンクしているのは慣行によるものです」。鶴さんも「政府の会議では労働時間の量的上限規制や休日・休暇取得に向けた強制的取り組みとセットで進めることを提案しています」と口を挟んだ。

「強制的に社員を早く帰らせることが重要みたいです」。明日香が所長に報告すると「よし、今日はノー残業で飲みに行くぞ」。所長夫人の円子が「それも若い人には残業みたいなものね」とチクリ。

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残業と業績に相関みられず

残業が多いとどんな問題が起こるのか。慶応義塾大学の山本勲教授は「サービス残業を中心とする労働時間の長さが、メンタルヘルスに影響を及ぼす」と指摘する。

勤務中に生産効率が低下するだけではなく、遅刻・早退や欠勤の増加、休職で勤務時間が減少することで企業にとって損失が膨らむ。残業が常態化した長時間労働の職場では、子育て中や親の介護が必要な社員が活躍できず、優秀な人材を失うことにもつながる。

企業側には残業を減らすことで、業績が落ちるのではと懸念する向きもあるだろう。ただ、日経キャリアNETのデータを基にした分析では、労働時間と売上高利益率に相関はみられない。

ソフト開発大手のSCSKでは11年の合併を機に当時の中井戸信英社長が「社員の健康を維持するために残業削減に取り組む」と宣言。残業時間削減を達成した部門にはボーナスを支給するなどの取り組みを実施した。

08年に月35時間だった平均残業時間は20時間前後まで減少。結果的に売上高は落ちず、増益も達成し、若手の定着率も上がったという。

リクルートワークス研究所の石原直子主任研究員は「長い時間働くと、集中力は切れて生産性が低下する。残業ばかりで職場に張り付いていると、それ以外の場所から刺激を得られず、創造性も落ちる」と指摘する。

(経済解説部 井上円佳)

[日本経済新聞朝刊2014年12月2日付]

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