残業なぜ減らない 業績との相関はなし

厳格な時間規制も必要

明日香は「日本特有の要因はあるかな」。労働政策研究・研修機構の浜口桂一郎さん(56)を訪ねると、「欧州連合(EU)では1日ごとに休息時間が規定されています。日本は組合と会社の間で労使協定がかわされていれば、無制限に時間外労働が許されます」。欧州の組合は産業別で組織されているのに対し、日本は企業別で、業績次第で強い主張ができない面もある。「日本企業はチームで作業をするので、早く帰ったり休んだりしにくいという性格もあるでしょう」と浜口さん。

明日香が「自分だけ早く帰りづらいわね」とつぶやくと、早稲田大学教授の黒田祥子さんが解説した。「職場で同僚から受ける影響はピア効果と呼ばれます」。いわゆる付き合い残業につながる。「日本で長く残業をしていた人が労働時間が少ない国に転勤した場合、労働時間が減ったとの調査結果が出ています」

「色々な要因が絡み合っている。どうしたらいいの?」。明日香が事務所に戻ると、所長が「先月は残業代が膨らんだ」と頭を抱えていた。

「経営者にも残業代は負担だから、労働時間を減らしたいはず。でも残業代は支払われてるのかな」。明日香が労働政策研究・研修機構が11年に発表した分析を見ると、管理職を除く会社員は平均で月13.2時間、残業代が支払われない「サービス残業」をしていた。日本の残業代割増率は現在25%(月60時間以上は50%)。「残業代をちゃんと支払うように指導したり、残業の割増率を引き上げたりすれば労働時間が減るのでは」。明日香は再び街に出た。

慶応義塾大学教授の鶴光太郎さん(54)に尋ねると、「企業にとって残業代は人員整理コストに比べれば大した負担ではないんですよ」。日本では仕事量が減ったときに社員を簡単に解雇しない代わりに、仕事量が増えたときも新たに雇うのではなく、1人当たりの労働時間を延ばして対応する。ただ若手が少ないなどで残業が常態化している職場も多い。「割増率を高めると労働者側に金銭的インセンティブが働いて、むしろ残業は増えてしまうかもしれません」と鶴さん。

「働く側は残業をどう考えているのかな」。明日香がリクルート本社を訪ねると、同社のほか日産自動車、三井住友銀行など7社が営業職の女性活躍に向けた提言を行う「新世代エイジョ(営業女子)カレッジ」の最終発表中だった。キリンビールマーケティングの西夏子さん(29)ら「ワーマノミクス」チームは、営業職が1日12~13時間働いていることを指摘。ノー残業デーやフレックスタイムなどについて「実際に労働時間の削減につながっているかは、上司の姿勢次第」と分析した。

「結婚・出産を経ても営業を続けられるかどうか、長労働時間が不安や離職につながっています」と西さん。同チームは、(1)マネジメント層の評価項目に売上達成率だけではなく労働時間削減率も入れる、(2)業績に結びつかない労働時間を洗い出す、(3)時間当たり生産性の高い社員を表彰するなど提言をまとめた。

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