フラッシュ・ボーイズ マイケル・ルイス著市場の信頼損なう超高速取引に警鐘

2014/12/1

株式の売買でもうけるには、いち早く情報を入手することが重要となる。しかし、情報化の進展とともに現在、投資家が情報面での優位性を利用して巨額の利益を獲得することは「夢のまた夢」と化している。

(渡会圭子・東江一紀訳、文芸春秋・1650円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 それはまた、株式市場に対する投資家の信頼を確保するための必要条件ともいえる。もっとも近年、信頼を揺るがしかねない事態が静かに進行している。売買の電子取引化や超高速化が新たな利益獲得の機会を生んだのだ。本書はその実態を初めて明らかにし、投資家や監督当局に注意を促す警世の書である。

 物語は、株式のトレーダーが株を買おうとしてパソコンの「買い」ボタンを押すと、さっきまで画面にあった売り注文が蜃気楼(しんきろう)のように消えたことから始まる。その理由を探ると、フラッシュ・ボーイと称される超高速取引トレーダーがナノ秒の差で買っていたことがわかった。

 超高速取引をするには、それなりの投資が必要であり、参入するか否かは経営判断といえる。しかし、不適切に利用されると、その他の投資家の利益が損なわれる。超高速トレーダーは、パソコンで得た株式の売買情報を通じて大口の売買注文が浮かび上がると、先回りして買い占めた後、高値で売っていたのである。こうした行為はフロントランニング(先回り取引)と呼ばれる。

 顧客の注文を受けた証券会社によるフロントランニングは、不正行為として各国とも禁止している。しかし、証券会社が自己勘定で行うことは特に規制されていない。この隙間で超高速トレーダーは利益をあげ、その他の投資家は高値づかみを余儀なくされて得るべき利益を逸する。

 超高速取引が乱用されると、一般投資家の利益が阻害される。大手証券会社などが創設したPTS(私設取引所)と呼ばれる株式の電子取引所でも、投資家の利益が損なわれているおそれが指摘される。売買注文の突合せはブラックボックス化し、公正な取引なのか検証できない。本書は、その実態を赤裸々に描く。

 株式取引の場合、「世に強欲の種子はつくまじ」と揶揄(やゆ)されるように、利益の追求なくしては成り立たない。情報化の進展とともに予想だにしない形で姿を現す強欲を制御して資本市場の公正性を確保することは果たして可能なのか。また、そのためには、どういった施策の実施が必要とされるのか。本書は、こうした厳しい問題の解決をわれわれに問うている。

(同志社大学教授 鹿野 嘉昭)

[日本経済新聞朝刊2014年11月30日付]

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

著者:マイケル ルイス
出版:文藝春秋
価格:1,782円(税込み)

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