新国立劇場「眠れる森の美女」初役のヒロイン 破格の魅力

大原永子新監督の元で、古典回帰の路線を明確に打ち出した新国立劇場バレエ。19世紀ロシア・バレエの最高峰ともされる「眠れる森の美女」で、シーズンを開幕した。

オーロラ姫役の小野絢子(右)と王子役の福岡雄大=写真 鹿摩 隆司

小野絢子のオーロラ姫に破格の魅力があり、これが初役とは信じられないほどの出来栄えだ。最初の登場場面、上品で鷹揚(おうよう)な中にちょっとお転婆(てんば)な気配も見え隠れして、無個性なお姫様に留まらない。豊かな表情に加えて、少女が大人になりかかる仄(ほの)かな色香もあり、「恋を知るべきときに、眠りに落ちる」という、16歳という年齢の暗示的な意味を思い出させてくれる。

さらにみごとだったのは、最終幕の結婚式だ。柔らかく形のよい腕使いに、すんなりと伸びた脚。つま先立ちから吸い付くように床に降りて決まるポーズ。典雅の極みであるのに加えて、音の前へと出て行く現代的な感覚もある。相手役の福岡雄大との息もよく合い、たっぷりと間を取って馥郁(ふくいく)とチャイコフスキーを「観せる」踊りだ。彼自身、持ち前の勇壮さに加えて王子らしい気品が増してきた。

ウェイン・イーグリングの演出には大胆な改変はなく、古風な様式美と予定調和に徹しているが、王子の憂愁のソロや目覚めのパ・ド・ドゥでの繊細な感情表現は、いかにも演劇バレエの国イギリスで長く活躍してきた人の作らしい。姫に死の呪いをかけるカラボスと、それを百年の眠りと王子のキスによる目覚めという祝福に変えるリラの精は、ともに等身大の女性で、善悪の象徴性や二項対立の世界観等は感じられない。豪華だが必ずしも日本人ダンサーを引き立てない衣装も含め、作品自体は物足りないが、主演者のこれほどの名演の前には不満は全て帳消し。これぞバレリーナ・マジック、古典バレエの醍醐味である。16日、新国立劇場。

(舞踊評論家 長野 由紀)