夢の燈影 小松エメル著新選組列伝 切れ味鋭く

2014/11/20
(講談社・1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

もし私の老眼の見損いでなければ、本書は、新選組隊士を列伝風に扱ったものとしては、司馬遼太郎『新選組血風録』以来の収穫だ。

 こちらは、近藤、土方、沖田は脇役。だが、彼らのすべては短い文章の中に端的に示されている。

 本書で主役を張るのは井上源三郎、山崎丞といった面々である。

 巻頭の「信心」で描かれるのは、鳥羽伏見の戦での井上の横死。人は死ぬ時に己の一生を一瞬のうちに垣間見るというが、作者はこの二文字の中に見事にそれをやってのけた。続く「夢告げ」を読むと同テーマを扱った『血風録』の「長州の間者」より切れ味がよく愕然(がくぜん)とする。

 さらに「流れ木」ではこれまで悪役として描かれてきた谷三十郎が、近藤の養子となった出来の悪い弟のために苦悩するまったく別の人格として捉えられている。また、近年、池田屋騒動の際、山崎丞に報奨金が出ていなかったので、探索に関与していなかったのではないかという説があるが、これを説得力を持って否定。

 死せる隊士を絵の中に封じ込めて終わる「姿絵」まで、近年、私をこれほど本気にさせる小説はなかった。

★★★★★

(文芸評論家 縄田一男)

[日本経済新聞夕刊2014年11月19日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

夢の燈影

著者:小松 エメル
出版:講談社
価格:1,728円(税込み)

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