失業率の現状をインターネットで調べると、総務省のホームページに年齢別のデータが載っていた。9月の完全失業率(季節調整値)は3.6%で今年で2番目に低い水準だが、15~24歳は5.9%、25~34歳は4.6%。35~44歳(3.4%)と45~54歳(3.3%)を上回っている。「若者の失業率も下がってはいるけれど、他の年齢層より確かに高いわ」
明日香はまず、労働経済学が専門の慶応大学教授、太田聰一さん(50)に話を聞いた。「若者の失業率が中高年より高いのは、自分から仕事を辞めて職探しをする人が多いからです。これは万国共通の傾向です」。求人があっても満足できる仕事が見つかるまで探し続ける「自発的失業」が多いという。太田さんは「日本の雇用環境は最近、改善し、若者は職に就きやすくなっています」と説明した。
「私もほぼ同じ感触です」。大学に立ち寄ったニッセイ基礎研究所経済調査室長の斎藤太郎さん(47)が解説を始めた。失業率は、景気が拡大すると下がる「需要不足失業率」と、労働市場の需給が一致していても業種や地域、企業規模によるミスマッチなど構造問題が原因で生じる「構造失業率」からなる。後者は、企業には欠員があるのに同数の失業者がいる状態の失業率で、経済学で「自然失業率」と呼ぶ概念とほぼ同じだ。
斎藤さんが企業の欠員率と失業率のデータを基に試算したところ、昨年の若者(20~24歳)の完全失業率(7.0%)のうち需要不足失業率は0.5%、構造失業率は6.5%。リーマン・ショック後の2009年には若者の需要不足失業率は1.7%超だった。「景気回復で需要不足はかなり解消しました。完全失業率はこれ以上は下がりにくい水準になったといえます」
「中高年との失業率の差は若者の側にだけ原因があるのかしら」。明日香は首をかしげながら、社員教育サービスなどを手掛けるカイラボ(東京・千代田)代表取締役の井上洋市朗さん(29)を訪ねた。「ステップアップを目指して会社を辞める若者もいますが、やむを得ない事情で次の職場を探す若者の方が圧倒的に多いです」