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歌舞伎座11月公演 染五郎、初役で見事な弁慶

2014/11/11 日本経済新聞 夕刊

初世松本白鸚三十三回忌追善の顔見世月の歌舞伎座、注目の的は染五郎が初役で弁慶を勤める「勧進帳」だ。どちらかと言えば線の細い二枚目役者の染五郎の弁慶に一抹の不安を抱かなかったとは正直なところ言えない。だが見終わった今、その杞憂(きゆう)は消えた。正確に言えば杞憂が消えたのではなく、染五郎の努力と成功させずにはおくまいとする意志の力が杞憂を消したのだ。その意志の力が弁慶の心に通じたところに生命がある。見事な弁慶だった。父の幸四郎が富樫、叔父の吉右衛門が義経と大先達の好リードのおかげもあるが、正攻法で拮抗している。吉右衛門がセリフの音(おん)遣い、身のこなしで見事に義経になっているのには脱帽する。

施主である幸四郎の演目は「熊谷陣屋」。顔のこしらえも赤を強く坂東武者の趣を前面に出した造形が面白い。適役ぞろいの中にも魁春の相模が心優しい母であり妻である両面をうまく見せる。菊五郎が義経を付き合って、がぜん大舞台になるが、その菊五郎が気力充実の権太を勤める「義経千本桜・すし屋」では幸四郎が梶原で出て舞台を大きくする。時蔵の維盛、梅枝のお里が出ると丸本物らしいムードが横溢(おういつ)する。左団次・右之助の弥左衛門夫婦、萬次郎の若葉の内侍と脇もそろう。

吉右衛門は「井伊大老」。演じ重ねてますます滋味深いが、大詰め「桜田門外」の場を付けたのは、かえって感興をそぐきらいもある。芝雀のお静の方、又五郎の長野主膳、歌六の仙英禅師、いずれも初役好演。錦之助の水無部六臣も熱演だが役違いではないか。松緑・菊之助の「鈴ケ森」、開幕の「寿式三番叟」も好舞台。25日まで。

(演劇評論家 上村 以和於)

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