保険外でも質の高い治療 自由診療という選択肢

健康保険や社会保険を使わない自由診療。患者の経済的な負担は重くなるものの、診察に十分に時間をかけられたり、手間のかかる治療法を選択できたりといったメリットもある。医師らの「こだわり」に賛同し、選択する患者も少なくないようだ。

蓄膿症(ちくのうしょう)に悩まされる男性(73)は長年、自宅近くにある耳鼻咽喉科に通院し、処方された薬を飲み続けていた。しかし症状が改善しないため、1年前から仁保耳鼻咽喉科医院(横浜市)に通う。「鼻水が治まった。完治まで通いたい」と話す。

患者の鼻の内部を洗浄する仁保耳鼻咽喉科医院の仁保院長(10月、横浜市)

男性が受けた「上顎洞穿刺洗浄」と呼ばれる治療法は、鼻の穴から注射針を入れ、生理食塩水などで洗浄する。症状の根本的な改善につながるとされるが、医師にとっては、手間の割に診療報酬の点数が低く、施術している医療機関は少ない。

戦前から続く同医院は、一貫して自由診療を採用している。現在の初診料は5千円と、通常の保険診療の2倍近い。しかしその分時間をかけて診察する。仁保正和院長は「保険診療では診療報酬の点数に沿って治療が進められるため、短い診察時間で限られた処置しか受けられない」と指摘。「質の高い治療には自由診療が欠かせない」と理由を話す。

治療によっては1人に1時間かけることもある。診察することのできる患者数は限られるが、月に200人ほどが来院。岩手県や愛知県などの遠方からの患者もいたという。

日本は国民全員が何らかの公的な医療保険に加入する「皆保険制度」だ。医療機関で診察を受けたり処方箋をもらったりしてかかった医療費のうち、本人が負担するのは3割(小学生から70歳未満)。

一方、同制度では医療行為や薬の値段は国が定める診療報酬で細かく定められ、医師や医療機関が勝手に決めることはできない。医師が自由に価格を決めたり、診療報酬で認められていない治療法や新薬を使う際は費用の全額を本人が負担する「自由診療」となる。

岩垂純一診療所(東京・中央)も、保険診療で認められている治療内容を自由診療で行う医師の1人。痔(ぢ)などの肛門疾患を専門とする岩垂純一院長は年間約2000例の手術を手掛けてきた第一人者だ。

勤務医時代、何時間も待った末に1分程度しか診られない診療体制に疑問を感じ、予約制の診療所を開業した。それでも患者数は1日あたり60人から70人で、診療に十分な時間を取れないうえ、採算も合わなかったことから自由診療へと切り替えた。

現在は1日の患者数は40人前後に絞っている。麻酔の専門医を雇い、7~8分で行っていた手術を30分以上かけるようになった。施術の様子をビデオに撮影し、患者に説明するような余裕もできた。「勤務医時代は数をこなすのが最優先。自由診療になってからは『選んでいただいてありがとう』と感じるようになった」と話す。

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