トーマス・ツェートマイヤー至上の難曲集、骨太に描き分け

超絶技巧を自在に操ったというヴァイオリンの天才パガニーニの「24のカプリース」は至難の奏法を満載し、依然、難曲の最高峰にそびえ立つ。今日でも珍しい全曲上演にオーストリアを代表するヴァイオリニスト、トーマス・ツェートマイヤーが挑んだ。

パガニーニの「24のカプリース」を全曲演奏した=写真 堀田 力丸

彼ほどのヴェテランの腕をもってしても、これは容易ならざる挑戦である。4本の弦の上を滑るように動く第1番は、弓が暴れて音程が決まらない。以後も重音の平行移動でアタックがきつすぎて響きがつぶれる、オクターヴの重音旋律で一方の声部がかすれる、弓が上滑りして弱音が入らない、などの現象が頻発。わずかなバランスの崩れで雰囲気ががらりと変わるし、立て直そうにも難所続きだ。独奏だから他の楽器に隠れることもできない。苛酷(かこく)である。

持ち味が見えだしたのは、荘厳な曲調を大きなスケール感でまとめた第4番あたりから。狂詩曲風に幅広い音域を駆ける第5番もドラマティック。第6番の重音によるトレモロ(同音反復)はまだ声部にムラがあったが、この後は尻上がりに調子をあげ、第12番の移弦をさざ波のように静かに決めて前半終了。

後半は完全にペースをつかみ、危なげない運びが聴かれた。低い弦を使い太く雄渾(ゆうこん)に歌う第18番、持続低音上で朗らかに囀(さえず)る第20番、弓を指板側に寄せて温かみを出した第21番、決然とした第22番と、テクニックを先行させず各曲の歌謡性を大づかみにして技巧で彩る。曲想の骨太な描き分けが見事だ。終曲では変奏ごとに装いを変える技が冴(さ)える。左手ピッツィカートがシャンパンの泡のように爽快にはじけ、澄んだ空間が現れた。17日、トッパンホール。

(音楽評論家 江藤 光紀)

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