熱中症、コロナと似た初期症状 アプリで重症度判定も
記録的な大雨でやわらいだ猛暑だが、8月下旬にかけて戻ってくる可能性が高い。まだまだ熱中症対策は必要だ。日本救急医学会は熱中症を手元のスマホのアプリで簡易診断できるようにした。熱中症の初期症状は新型コロナウイルス感染症と似ている。コロナの流行が続く中、使えるIT(情報技術)ツールを味方につけよう。
目まい、立ちくらみ、大量の発汗――。アプリの案内に従って年齢や環境などを記入し、当てはまる症状を選んでいく。すぐに救急車を呼ぶべきか、医療機関を受診するか、涼しい場所で一度様子を見るか。記入内容を基に重症度はどの程度で、どのような行動を取ればよいのかが画面上に表示される。
これはスマホアプリの「JoinTriage(ジョイントリアージ)」に搭載されている熱中症の診断支援システムだ。これまでありそうでなかった診断アプリだ。
選択できる症状には「生あくび」や「こむら返り」など、熱中症の特徴としてあまり認識されていないものも含まれる。実は熱中症で起きる可能性のある症状は15種類ほどとかなり幅広い。「熱中症の個別の症状を全て覚えるのは難しい。軽い症状の段階で早期発見ができるように工夫した」とアプリの開発を進めてきた日本医科大学付属病院の横堀将司・高度救命救急センター長は話す。
アプリの特徴の一つが、操作にあらかじめ慣れるための「練習モード」を搭載していることだ。特に高齢者は、緊急時は慌ててしまい簡単な操作でも難しくなり使いこなせないことが多いという。どのような質問項目があるかをあらかじめ頭に入れ、訓練を繰り返すといざというときに安心だ。症状に関する基礎的な知識を深めてもらい、熱中症の予防を啓発する狙いもある。
2021年は熱中症が前年に比べて増加傾向にある。総務省消防庁によると、6月1日~8月8日に熱中症で救急搬送された人の数は3万4768人(速報値)で、20年同時期の2万1995人から58%増加した。梅雨明けや7月下旬の全国各地の猛暑が影響を及ぼしており、晩夏から初秋に向けても予断を許さない。
日本救急医学会がアプリを開発したもう一つの狙いは、新型コロナとの識別だ。新型コロナの患者と熱中症の患者をより速く識別できれば、救急搬送や医療の現場の負担軽減につながる。アプリを使うことで、初期段階の識別をしやすくすることを目指している。
新規感染者数の増加に歯止めがかからない状況が続くと、日本医大病院の横堀センター長は「現場では、熱中症への対応を含めた一般医療の提供が困難になると危機感を持っている」と打ち明ける。早い段階で熱中症の可能性が高いことがわかれば、家族や周囲の人も適切な対応を取りやすい。横堀センター長は「アプリを活用して見分けてほしい」と訴える。
熱中症ではないかと疑う場合には早めに対処することが肝心で、重要なことは2つだ。重症化を避けるために、エアコンをつけたり、直射日光を避けて涼しい場所へ移動したりすることを心がけたい。そのあとたっぷりの水分補給を忘れないようにする。横堀センター長によると、水分摂取よりもまずは暑い環境を避けることが最優先だという。
新型コロナの感染拡大で、熱中症予防をする重要性は高まっている。屋外で十分に他人との距離が離れている場合には、マスクを外すなどの対応も必要だ。
横堀センター長は「新型コロナに感染するのを100%防ぐのは難しいが、熱中症は対策を取れば重症化を防止できる。基本的な対策をしっかり取ることを心がけてもらいたい」と指摘する。
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気象情報との併用も
熱中症を避けるには、気温や湿度などに基づいて危険度を事前に把握しておく必要もある。気象条件をもとに警戒情報を広く周知するスマホアプリも広がっており、活用するのも一つの手だ。
気象情報会社のウェザーニューズは、1平方キロメートルの範囲ごとに熱中症リスクを表す暑さ指数「WBGT」から算出した危険度を、ピンポイントで知らせるサービスを提供している。ヤフーも、環境省と気象庁が熱中症リスクが特に高まった際に注意を促す「熱中症警戒アラート」や熱中症の危険度をアプリでプッシュ通知している。
近年のインターネットやスマホの普及に伴い、熱中症予防や対策に必要な情報は以前よりも集めやすくなっている。情報のアンテナを広げて対策を取ることが、十分なリスク低減へとつながる。
(松添亮甫)
[日本経済新聞夕刊2021年8月18日付]
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