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陰謀論に振り回されないためには、情報の真偽を見極め、自ら考える力が必要だ イラスト・よしおか じゅんいち

陰謀は至るところにある。秘(ひそ)かな企(たくら)みで誰かを陥れる。気づかれないことが陰謀成功のカギだ。

陰謀論は反対に、陰謀に気づいていますと言い張る。世の中が変なのも自分の運が悪いのも、陰謀のせい。自分のせいではない。

なぜ陰謀だとわかるのか。自分だけ特別だからだ。そう思いたい人びとに、根拠のない陰謀論が広まる。妄想の星雲状態である。

陰謀論の原型は、カトリック教会が広めた悪魔だ。神は恵みと愛を人類に注ぐ。教会は神の代理で人びとに救いの手をさし伸べる。その割に税は重いし生活は苦しい。なぜだ? それはね、悪魔のせいなのさ。大天使が地に堕(お)ち、神を逆恨みして悪魔になった。悪魔のせいで悪がはびこるのさ。聖書のどこにもこんなことは書いてない。でも一神教で説明しにくい悪をうまく説明できたので、教会には都合がよかった。

プロテスタントがカトリック教会を飛び出した。宗教戦争になった。相手は悪魔のようなもの。社会全体が陰謀論に感染した。

プロテスタントはいくつもの教会に分かれた。信仰が違っても相手を悪魔みたいに思うのはやめましょう。仲よく暮らす決め手は理性である。信仰は棚上げし理性で結びつく。それが啓蒙思想、そしてフリーメイソンである。

諜報機関が流布

フリーメイソンはちょいと怪しげな儀礼を行う秘密結社。実質は親睦団体だ。イギリスで始まりフランスやドイツ、アメリカに広まって、カトリック教会と対抗した。ユダヤ人は入れない。片桐三郎著『入門フリーメイスン全史』(文芸社文庫・2020年)が、その歴史を正確に書いている。

陰謀論はしばしば、各国の諜報(ちょうほう)機関が火付け役だ。その昔、ロシアの秘密警察の創作になる『シオンの議定書』(成甲書房・12年)は、「世界制覇を企むユダヤ人の陰謀論」の種本だ。ヨーロッパにはびこってきた反ユダヤ主義のまがまがしい実態は、ハンナ・アーレント著『全体主義の起源』(全3巻、大久保和郎ほか訳、みすず書房・17年)でよくわかる。

日本に本格的な陰謀論が伝わったのは第1次世界大戦後。共産主義と世界革命の脅威が迫るなか、陸軍がドイツの陰謀論を輸入してふれ回った。フリーメイソンとユダヤ陰謀説をごた混ぜにした粗悪なストーリーだが、免疫がないままかぶれた日本人も多かった。

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