兵庫・明石のタコ アヒージョやタコづくし会席料理も
兵庫県明石市の沖合でとれる「明石のタコ(マダコ)」。麦わらダコとも呼ばれる夏場の旬(6月後半からお盆のころ)は終盤だが、11月末から年明けごろの冬場のタコも身が引き締まっておいしい。地元明石ではタコへのこだわりは強く、様々な店でタコ料理を楽しめる。
「明石の魚 嵜(さき)」店主の山嵜清張さんは地元の明石浦漁協に20年以上勤めた魚の目利き。明石の魚介を多くの人に知ってもらうため10年前に店を開き、同漁協でその日仕入れた旬の魚介を提供する。人気はやはりタイとタコだそうだ。
タコ料理ならば弾力のある生タコの刺し身や、干しダコのうまみが際立つタコ飯などの定番は押さえたいところだが、女性客らに人気のタコのアヒージョも捨てがたい。ぶつ切りのタコのうまみが熱々のオリーブオイルににじみ出し、バゲットをオイルに浸して食べるとタコの風味がふわりと口に広がる。
山嵜さんはかつて明石のご当地検定「タコ検定」の問題を作成したほどタコに詳しい。「2000年前のたこつぼが出土するなど、明石にはタコの食文化が根付いている」と話す。
魚の棚商店街の「喜楽」はタイや穴子、ハモなど明石の魚介を中心に提供するが、明石のタコ目当てのお客が多い。昼夜通して人気が「たこ定食」で、刺し身、煮付け、酢の物、タコ飯と定番のタコ料理を一度に楽しめる。タコの唐揚げなど単品料理も充実しており、運良く仕入れがあれば珍味とされるタコの子(卵)の煮付けも試したい。タコ飯やタコ弁当など持ち帰りの弁当もある(夏場除く)。
明石のタコを味わいつくしたいという人には料亭旅館「人丸花壇」がタコづくしの会席料理を用意している。食事だけの利用も可能で、昼の「ミニ蛸会席」だとタコのもろみあえに始まり、薄造り、柔らか煮、焼き八寸、天ぷら、タコ酢、タコ飯と7品を楽しめる。秋川豊料理長は「料理に合わせて大小のタコを使い分け、うまみや食感など飽きさせない工夫をしている。実に楽しい素材だ」と話す。
大量のタコを仕入れるので珍味に巡り合えることも。この日の会席の薄造りには小さなタコの白子が添えられていた。イカに比べて希少なタコの墨と、裏ごしした肝を衣に混ぜたタコの天ぷらはコクと甘みがある。タコ料理は通年で頼めるが、9月など旬を外れた時期は薄造りなどは難しいという。コロナ禍の収束を待ち夏冬の旬を狙って明石を訪れるのもよいだろう。
明石のタコが全国でも有名になった理由は、陸を歩くといわれるほどの生きの良さ。タコ漁が盛んな東二見漁協(明石市)によると、潮の流れが速い海域で育つため足が太く身が引き締まり、餌となる甲殻類も豊富でタコ本来の味わいが増すのだという。
タコの漁獲量は2015年までは1000トンを超えていたが、最近はその半分以下の年もある。海水温の変化や海の栄養不足が原因ともいわれる。東二見漁協によると今年も不漁だそうで、関係者は資源保護に力を入れている。
(神戸支局長 堀直樹)
[日本経済新聞夕刊2021年8月12日付]
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