ルールはアップデート必要 「ブラック校則」見直しを
ダイバーシティ進化論(スプツニ子!)
「学校の常識は世間の非常識」といわれる。昨年夏に行われた調査で、東京都立高校の45%で「地毛証明書」を求めていることがわかった。茶色い髪や癖毛が生まれつきであることを示す証明書だ。ほかにも、制服を着る時の下着の色を白に制限したり、外泊・旅行の届け出を学校に求めたりするなど、不合理な校則が各地で顕在化している。
いわゆるブラック校則だ。SNS(交流サイト)などで「非常識だ」と問う声が高まった。文部科学省は6月、各都道府県の教育委員会などに、社会や時代の変化に合わせて見直すよう求める通知を出した。
日本には茶道や華道など、型や作法にのっとることで美しさを表現する世界もある。だが、ブラック校則という型を順守することに美は見いだしにくい。窮屈というレベルを超え、人権侵害の域に達している。
地毛証明書は日本人が単一民族・人種である、という幻想を前提にしている点でも見過ごせない。日本には多様な人が住み、日英の両親のもと生まれた私のように人種ミックスの人も増えている。ある型から外れた人を特別視する人種差別的なルールだと思う。
歴史に「もし」はないが、東京五輪・パラリンピックで多くの外国人が観客として来日し、日本人と交流していたら――。彼らの目にブラック校則はどう映っただろう。
校則がどうあるべきかは、本来はシンプルでいいと思う。学びを妨げることを、禁ずればいい。私は中学高校時代、東京のアメリカンスクールに通った。そこでは遅刻や麻薬使用を禁ずる最低限のルールしかなかった。それでも中高生としての学びに問題はなかった。
そもそもルールは何のためにあるのか。私は社会を豊かにするための潤滑油のようなものだと考えている。100年前に比べ、多様な生き方が尊重されているのは、ルールの絶え間ない見直しがあったからだ。女性の参政権や性的少数者の結婚合法化の広がりは、それまでの法律を疑うことなくしてありえなかった。
ルールは時代と照らし合わせ、アップデートする作業が必要だ。保護者のみなさんも学校のルールが時代や社会からずれていないか見直し、子どもと一緒に学校とコミュニケーションを取ったり、素直な疑問を発信してみたりしてほしい。それはSNS時代に大きなうねりとなるはずだ。
アーティスト、東京芸術大学デザイン科准教授。インペリアル・カレッジ・ロンドン数学科、情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院(RCA)デザイン・インタラクションズ専攻修士課程修了。RCA在学中より、テクノロジーによって変化していく人間の在り方や社会を反映した映像インスタレーション作品を制作。2013年マサチューセッツ工科大学(MIT) メディアラボ 助教に就任。その後、東京大学生産技術研究所特任准教授を経て、19年から現職。
[日本経済新聞朝刊2021年8月9日付]
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