女性は共同で創業するケースが多い。人工知能(AI)が化粧方法を助言するアプリを提供する「ミラーリ」共同創業者のアウワド・クレイシュさんは、元経営コンサルタントだ。コンピューター科学者や美容の専門家とチームを組んで会社立ち上げに至った。現地紙エルサレム・ポストは「政府と民間主導の育成プログラムは投資家やパートナーを探す役割がある。その一例がミラーリ」と説明する。

起業を前向きに捉える文化も女性起業家指数を押し上げた。イスラエルは1948年の建国以来、周辺のアラブ諸国やパレスチナとの緊張関係が続く。国家存続のためには技術革新を起こし続けなければならないという危機意識が、失敗を許容する風土や大胆な発想につながっている。

多摩大学ルール形成戦略研究所の客員研究員、吉富愛望アビガイルさんはイスラエルにルーツを持つ。暗号資産や培養肉といった新分野での事業に携わってきた。

日本の大学院修了後、母親の母国イスラエルの軍隊にボランティアとして参加した。明日何が起きるかわからない状況に常に置かれ、大学、就職といったレールから脱線することに抵抗感を示さないイスラエル人らの姿が印象的だったという。「国や産業の発展に必要なことは何か考えるきっかけになった」。自らも「自由にやりたいことをやろう」と感じたという。

逆境で育つ起業マインド 政府支援プログラムの取締役に聞く

マスターカードの女性起業家指数で、日本は47位に沈む。女性の社会進出でも他の先進国に後れを取るなか、日本はイスラエルから何を学べるか。コンサルティング会社の最高経営責任者(CEO)や政府の起業家支援プログラム取締役などを務めるインバル・アリエリさんに聞いた。

コンサルティング会社の最高経営責任者(CEO)や政府の起業家支援プログラム取締役などを務めるインバル・アリエリさん

――イスラエルが女性起業家にとって最適な環境と評価されました。

「特有の文化的背景が寄与したのではないか。イスラエルの起業家の根底には『chutzpah(フツパ)』と呼ばれる考え方がある。混沌とした状態を歓迎し、逆境を糧とする精神だ。国が常に不安定な状態にさらされる社会的背景が女性の起業マインドにも大きく影響している」

――アリエリさんは軍の精鋭諜報部隊にも所属していました。

「膨大な情報から安全保障に関わる情報を抽出する任務に従事していた。この任務にはチームワークや課題解決などビジネスに必要とされる要素が詰まっている。こうした軍での経験は起業に大きな役割を果たした」

――日本がイスラエルから学べることは。

「日本は経済や人口規模、社会・文化的背景までイスラエルとは大きく異なるが、国際競争が激しさを増すなか、自らの置かれた条件下で『どう生き残るか』を意識することが重要だ」

――日本で起業を目指す女性にメッセージを。

「子育てとの両立に悩み、男性優位のビジネス環境で壁にぶつかるかもしれない。そんなときに自分の支えとなる人を見つけることが大切。それが起業の第一歩となる」

兵役義務、最先端技術習得の機会に
 イスラエルでは男女ともに兵役義務がある。優秀な人材は諜報(ちょうほう)部隊に配属され、軍の施設でソフトウエアの開発やAIといった最先端技術を学ぶ機会がある。一橋大学の石倉洋子名誉教授(グローバル戦略)によると、兵役終了後は学んだ技術を安全保障に影響が出ない範囲で起業に生かすことが奨励されており「イノベーションを起こす環境が他国以上に整っている」という。
(井上航介、山下美菜子)

[日本経済新聞朝刊2021年8月9日付]