大阪の泉州水なす みずみずしく皮柔らか、果実のよう
下ぶくれでずんぐりとした「泉州水なす」は大阪府南部、泉州地域の特産だ。JA大阪泉州(泉佐野市)とJAいずみの(岸和田市)が地域ブランドに登録。柔らかい皮と水分の多さが特徴で、生で食べると、みずみずしさとほんのりした甘さが味わえる。
貝塚市の中出農園の中出庸介さんによれば、この地域の水ナス栽培は「祖父の呼びかけで広がった」という。首都圏で知られるようになったのは「漬物として注目されたのがきっかけ」(JA大阪泉州の中司賢吾さん)で、多くは漬物用として出荷される。
南海本線貝塚駅から徒歩3分、古い木造の長屋の一画を改装し10年ほど前に開業した「古民家そらCafe」では、人気のランチメニュー「そらランチSet」にこの時期、水ナスのサラダが登場する。鶏肉などメイン一品にごはん。味噌汁のほか地元野菜をふんだんに使った煮物などの小鉢が並ぶ。
サラダは近くの農家でその日の朝に収穫した水ナスを一口サイズにカットし鶏肉をあえた一品。身も皮もサクッとした歯触りで、ゴマ風味のドレッシングとともにフルーツのような甘さが広がる。
貝塚駅からローカル私鉄、水間鉄道で山あいへ15分、終点の水間観音駅から徒歩10分のところに天平年間(729~749年)に聖武天皇の勅願で行基が開いたとされ、厄よけで知られる古刹、水間寺がある。このすぐ脇にある「茶房 一会」では夏場、水なすカレーがメニューに加わる。短冊状にスライスし、さっと油に通した水ナスをのせたもので、ルーと絡んで歯触りと甘さを楽しめる。
貝塚駅から北東へ車で5分。府道204号堺阪南線に面して開業70年を超える「うどんダイニングよさこい」のメニューには「泉州水なすうどん」がある。3代目の中岡靖昭社長が「10年ほど前、地元産品を使ったご当地うどんとして始めた」という。油通しした短冊状の水なすに辛味噌をあえ、うどんとともに少なめの汁に絡めて食べると、みずみずしさが際立つ。焼きナスならぬ「水なすステーキ」では「皮の柔らかさを味わってほしい」と中岡社長。
水ナスの漬物は白だしなどの浅漬けで、透明な袋で中身が見えるパッケージが多い。泉州では同じ浅漬けでもぬかにくるんで数日で味わうのが主流。JA大阪泉州ではぬかにくるんだ「水なす浅漬け」や泉州発祥とされるタマネギを使ったものなどドレッシング2種類と生の水なす8個のセットなどを8月末までネット販売している。
泉州でとれた水ナスのタネを他の地域で育てても「皮が固くなったり、みずみずしさが足りなかったりする」とJA大阪泉州の中司賢吾さん。泉州の土壌や気候のなせる技で、多くの農家は冬場には鍋料理に人気の菊菜(春菊)を栽培しており、「他の野菜農家より経営は堅調」(同)という。
同JAは今年から大阪府と就農者を養成する「大阪産(もん)スタートアカデミー」を開催。「水なす+きくなアカデミー」の就農検討コースに5人が応募。面談や座学を経て10月から農家での実習に取り組む。
(堺支局長 高佐知宏)
[日本経済新聞夕刊2021年7月29日付]
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