意外に暑い山形の2大涼麺 まさかの氷入りラーメンも
山形は暑い。1933年に気温40.8度を記録して以来74年、2007年に埼玉県熊谷市などに抜かれるまで、山形市は長く「日本一暑い街」だった。その山形で生まれた2大涼麺が「冷やしラーメン」と「冷たい肉そば」だ。今でもやはり山形の夏は暑く、この2つの看板に吸い寄せられる山形県民は多い。
「最初は『邪道だ』とも言われたようですが、コロナ禍前には(3人だけで切り盛りする店で)1日600食出た日もありました」。山形市の冷やしラーメンの老舗「栄屋本店」の3代目、阿部徹さんはそう話す。
冷やしラーメンは、酸っぱい冷やし中華とは全くの別物で、いわゆる普通のラーメンを冷たくしたものだ。だが、単に冷やすだけではスープの脂が固まってしまう。それを克服したのが徹さんの祖父。「夏は冷たいラーメンが食べたい」との客の声に応えて研究、1952年に商品化した。
注文すると氷の浮かぶラーメンが出てきた。「夏は10個以上、冬も3~4個入れてます」。チャーシューは脂身の少ない牛肉。ほかに太いメンマ、キュウリ、かまぼこ、ノリ、モヤシ、ネギ。具材は至ってシンプルだ。かつおや昆布のだしが効いたスープが弾力ある中太麺にからむ。
JR山形駅前の「ラーメン渓流」は冷やし味噌ラーメンの実力店。十数種類のスパイスを使った辛味噌が多くのファンをひき付ける。「山形はしょうゆ系が主流で、味噌の冷やしは珍しい」と同店の横田光哉さん。姉妹店がミシュランガイドに掲載されたこともあり、遠方からの客も多い。
ソバも有名な山形では、山形市の北の河北町で生まれた「冷たい肉そば」も人気だ。
居酒屋が無かった戦前、河北町ではそば屋で馬肉の煮込みをつまみに酒を飲んでいたという。「それをそばに入れたらうまかった」(河北町商工会の芦埜貴之課長)。やがて馬肉が入手しにくくなり、鶏肉を使うようになった。「温かいとそばが伸びてしまうので」冷たくした。
地元の有志が「かほく冷たい肉そば研究会」を組織し、B級グルメの祭典B1グランプリで入賞したこともある。商工会正面のそば店「いろは支店」の一品は、太くコシがあるそばの上に親鶏の硬めの肉がのっている。甘じょっぱいつゆがクセになる。
山形市でも多くのそば店で味わえる。旧豪商屋敷を改築した「紅山水」の冷たい肉そばは「地元の粉をブレンドし、毎朝手打ちする二八そばが自慢」(同店の山口秀夫さん)だ。
最高気温日本一は譲ったが、「ラーメン好き」の王座は揺るがなかった。山形市は、総務省の家計調査で2020年度の中華そば(外食)支出額が8年連続の日本一。来客を出前のラーメンでもてなす風習があるほどの麺好きの街だ。
ラーメンを出すそば屋が多く「あるそば専門店が客に『何でそば屋なのにラーメンが無いんだ』と怒られた」との笑い話も。栄屋本店も元はそば屋だ。「若いころは毎朝そばを打ってましたが、ラーメンばかり出るのでそばはやめました」(阿部徹さん)。
(山形支局長 増渕稔)
[日本経済新聞夕刊2021年7月15日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界