問われる資本効率

近年、世界中でESG投資が大きなうねりになっている。米国でも19年8月に経営者団体のビジネス・ラウンドテーブルが、従来の株主第一主義を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言した。コリン・メイヤー著、宮島英昭監訳、清水真人ほか訳『株式会社規範のコペルニクス的転回』(東洋経済新報社、21年)は、株主第一主義を批判し、株式会社はステークホルダーの利益に貢献すべきだと説く。

具体的には、会社法を改正して株式会社の「目的」を定款に記載させ、取締役は株主に加えて利害関係者に対し、受託者責任を負うべきだと提言する。この考え方は、米国のベネフィット・コーポレーションやフランスのPACTE法にも通底する。著者は、株式会社の源流は、ローマ時代に公益のために設立された非営利法人で、その後も長い間、公的目的を果たしてきたと指摘する。原題のProsperity(『繁栄』)は、株式会社は経済・社会の発展を支えるべきだという著者の信念を示す。

従来より日本企業は、従業員や顧客などのステークホルダーを重視してきたことから、海外の考え方が日本に歩み寄ってきたという見方もある。しかし、現在のガバナンス改革のきっかけは、「失われた20年」の間の日本企業の低い資本効率やパフォーマンスに対する危機感である。資本効率を高めて株主に対する責任を果たすと同時に、環境を含む幅広いステークホルダーに貢献するという、より高いハードルが求められている。

[日本経済新聞朝刊 2021年7月10日付]

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