広島「がんす娘。」で人気上昇 魚すり身のパン粉揚げ
広島県には知る人ぞ知る食べ物がある。その名も「がんす」。魚のすり身にパン粉をつけて揚げた食品だ。誕生は戦後まもなくとされるが、最近になって注目が集まり、都内のアンテナショップや土産物店でも人気が高い。
がんすの名は「~でございます」という広島方言に由来する。広島でも局地的な食べ物だ。その一つが広島市西区の草津エリア。広島最大の漁港が近く、かまぼこなど練り物の製造業者が集まる。10年ほど前からがんすを製造している坂井屋で製造風景を見せてもらった。練ったすり身を四角い型に入れて形をつくり、パン粉をまぶして揚げる。
すり身の中にはタマネギ、トウガラシ、焼きニンニクを入れているという。「うちは輸入のスケソウダラのほかに地魚も使い、手作りでやっています」と高崎明彦社長。
がんすの誕生には諸説ある。草津にあった網節商店(廃業)が生み出したという説のほか、呉市広地区で生まれたという説もある。呉市にある三宅水産はトウガラシ入りのがんすを1950年の創業当時から作っていたという。ただいずれも当時は、かまぼこやちくわに比べると脇役的な「変わり種」だったようだ。
広島県内でもさほど知られていなかったがんす。その知名度をアップさせたのが、三宅水産の三宅清登社長の娘、結花さんの約15年前からの「がんす娘。」としての奮闘だ。
大きなコック帽をかぶり、客に「ありがんす」とお礼をいう試食販売は呉市や広島市のスーパーなどから引っ張りだこに。1カ月に23件の試食販売をこなしたこともあるという。
練り物需要が減るなか、がんすはフックの効いたネーミング、若者をひき付けやすい揚げ物である点など、好条件がそろっていた。広島駅ビルに出店している出野水産では、ちくわを買うのはもっぱら年配層だが、がんすは若者の購入が目立つという。
さらに大きな魅力がアレンジの自在さだ。そのまま酒のつまみになるほか、カツ丼のカツの代わりに使ってもおいしい。パンにチーズ、大葉とともにはさんでホットサンドにして食べるのもよいという。
ただ大多数の広島人にとっては「名前も知らない食べ物から、名前は知っていても食べたことのないものに昇格した段階」(三宅結花さん)。19年からがんすの製造を始めたという出野水産の出野保志社長は「産官学でタッグを組み、がんすを盛り上げていけないか」と期待を寄せる。
がんすに似た食べ物は広島県の周辺にも点在している。例えば島根県浜田市などでつくられる「赤てん」。魚のすり身に赤トウガラシを入れて揚げた食品で、がんすに比べて赤いのが特徴だ。広島市内のスーパーでもちょくちょくお目にかかる。
徳島県の「フィッシュカツ」はカレー粉が入ることが多く、同県で「カツ」といえばこれを指すといわれるくらいだ。佐賀県などの「魚ロッケ」も同じく魚のすり身揚げ。似ているようで味は少しずつ違う。食べ比べてみるのも面白い。
(広島支局長 長沼俊洋)
[日本経済新聞夕刊2021年7月1日付]
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