年齢とともに聞こえにくさや会話しづらさを感じた人は「加齢性難聴」かもしれない。認知症のリスクやうつ状態につながる可能性もあるため、早期の発見や診断が大切だ。定期受診や補聴器使用が生活を改善しリスクを下げる。円滑なコミュニケーションには周囲の理解も欠かせない。
埼玉県所沢市在住の女性(76)は、もともと左耳に補聴器をつけて生活する。右耳もほぼ聞こえず、不便には慣れていたが、会話が難しくなったのを家族が心配し、医療機関を受診した。「聞こえないのを放っておくと認知症になるかもしれませんよ」。医師に告げられた。
左耳の聴力が大幅に下がっていることが分かり、補聴器を両耳に合うように調整した。進行は続くが、家族との会話が増え、一人暮らしや車の運転を続ける。
加齢性難聴は通常、両耳の聴力が徐々に落ち、高い音から聞きにくくなる。音を受け取る「内耳」や神経の働きが衰える。防衛医大の水足邦雄講師は「騒音への暴露や遺伝的要因が原因と考えられる」と説明する。
言葉の聞き取り能力が落ち、雑音が多い環境や大人数での会話が難しくなる。個人差があるが、自分では気付かない場合も多い。人との交流や会話を避け、生活の質が落ちたりうつ状態になったりする場合がある。認知機能の衰えと関係することも分かってきた。
英医学誌「ランセット」の国際委員会は複数の研究論文を分析し、認知症のリスク因子として難聴や喫煙、肥満など12項目を挙げた。これらを改善すれば、認知症の最大4割は予防したり進行を遅らせたりできる可能性がある。難聴への対策には補聴器使用や騒音から耳を守ることを挙げた。
水足講師は「聞こえにくい自覚があったり、家族に指摘されたりしたら早く耳鼻咽喉科を受診してほしい」と話す。聞き返すことが増え、認知機能に問題があるようにみえたら受診を勧める。定期的な聴力検査も早期発見につながる。
進行を抑えるのは難しいが、補聴器で改善すれば、言葉を聞き分ける能力の維持につながる。中耳炎やウイルス感染が原因の可能性もある。補聴器で十分な聴力を得られなければ、人工内耳を入れる方法もある。
補聴器は医療機関や販売店で買える。日本補聴器販売店協会の副理事長で神奈川リオネット販売(横浜市)社長の新井英希氏は「まず耳鼻咽喉科の診察を促し、治療や補聴器の必要性などを判断してもらう」と話す。直接来店しても基本的に耳鼻咽喉科を紹介する。
何度か来店し、聞こえ方を調整する。扱いに慣れるには時間がかかる。新井氏は「周囲の理解や支援が欠かせない」と話す。補聴器の限界を知り、会話能力を引き出す必要がある。受診や購入の際、家族らが付きそうのが望ましい。