薬の説明はオンラインで コロナで特例、進む規制緩和
医師に薬を処方してもらうと、薬剤師から服用時の注意について説明を受けることになる。この「服薬指導」は直接対面が基本だが、規制緩和で条件付きながらオンラインでもできるようになった。普及はまだこれからとはいえ、新型コロナウイルスの感染対策になる面も。使いやすくなることへの期待は大きい。
「対面で説明を受けるのとほとんど変わらない。わざわざ薬局に出向く必要がなくて便利」。アトピー性皮膚炎で通院治療中の横浜市に住む27歳女性はオンラインでの診療と服薬指導を初めて受けてみた。
スマートフォンにオンライン診療システムのメドレーが手掛けるアプリ「クリニクス」をダウンロードし、対応する皮膚科を探して予約。時間が来るまでに簡単な問診にアプリ上で答えた後、ビデオ通話で医師の診察を受けた。薬の処方箋は皮膚科から対応する薬局に直接送ってもらった。
薬剤師とのビデオ通話でお薬手帳をスマホの画面越しにみせると、「いつも使っているものですね」。薬は自宅に送ってもらい、2日後には無事届いた。支払いもクレジットカード決済で簡単だったという。
これまでは仕事を終えて病院や薬局に行き、2時間近く待つこともあった。普段の医師や薬剤師との会話は2~3分。通う手間が負担だった。オンラインならば家にいながらできる。慢性疾患を抱える人や薬局が遠くて行き来が大変な人には頼りになりそうだ。
医師が処方する薬の使い方や副作用などの薬剤師による説明は法律で義務付けられている。対面での説明が求められていたが、2020年4月にはコロナ禍での特例として、オンラインや電話でも、初めての薬局でも、薬剤師の判断で利用できるようになった。
20年9月には改正医薬品医療機器法(薬機法)が施行され、オンラインでの服薬指導が特例とは別に一般的に認められた。ただ初回は使えず、電話だけでなく映像を通じてもやりとりする必要がある。オンライン診療や訪問診療を活用し、原則これまで処方された薬に限るといった前提条件もある。政府は特例を踏まえ、初回からのオンライン利用などを22年度から順次認める方向だ。
活用例は出始めている。調剤薬局大手アインホールディングスもそのひとつ。アイン薬局NEWoMan新宿店(東京・新宿)ではコロナ拡大を受けた初の緊急事態宣言後の20年5月に50件利用があった。再び宣言が出た今年1月も48件。ビデオ通話より特例で認められた電話での利用が圧倒的に多いというが、自宅療養中のコロナ陽性患者に服薬指導する例もあった。
アインは将来需要が増えるとみて薬の配送の効率化を模索。物流企業などと組んで当日輸送の仕組みづくり、ドローンを活用した配達実験などを進めている。
約17万人が利用するというお薬手帳アプリのホッペ(東京・港)も薬剤師とのビデオ通話で服薬指導が受けられる機能を追加した。薬剤師でもある新関一成社長は「ビデオ通話であれば利用される方の顔も確認できる。安心して使ってもらえる」と期待する。
利用者には「使い方がわからない」「薬はすぐ手元にほしい」といった思いもある。日本薬剤師会の長津雅則常務理事は「薬剤師は患者の表情をじっくり観察している。安全のためにも服薬指導は対面が原則」と主張する。ただ医療健康分野に詳しい野村総合研究所の高藤直子上級コンサルタントは「どこからでも薬剤師にアクセスでき、服薬方法の確認や健康相談ができる。薬の配送を含め医療分野に新たな動きを呼び込むきっかけにもなりうる」と指摘する。
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診療と連携、普及のカギ
動き始めたオンライン服薬指導だが、普及に向けては課題も多い。なかでも大事になってくるのが医師によるオンライン診療との密接な連携だ。
厚生労働省によると、電話を含めた遠隔診療の登録医療機関は全体の15%程度。初診から対応可能なのは6%程度にとどまる。医師にとっては画面越しの会話が中心で検査や触診ができず、患者の状態を把握しにくい。導入コストの大きさや診療報酬の低さが妨げになっているとの指摘もある。
そうはいっても医師、薬剤師がともにオンライン対応していなければ利便性を実感しにくい。野村総研の高藤さんは「オンライン服薬指導の利用拡大にはオンライン診療の普及が欠かせない」と強調する。
(高橋里奈)
[日本経済新聞夕刊2021年6月23日付]
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