コロナ下の結婚増には…未婚5割が「雇用安定」求める
未婚男女1000人・日経調査
厚生労働省が発表した人口動態統計によると、2020年の婚姻数は前年比12.3%減の52万5490件となり、戦後最少を更新した。日本は結婚しないと子どもを持たない傾向があり、婚姻の減少や先送りは少子化の加速に響く。コロナ禍の収束が見通せない中でも結婚する人が増えるには、どんな支援が必要か。日本経済新聞社が未婚の男女千人に調査したところ「雇用の安定」「新婚家庭への金銭的支援」を求める声が上位となった。
「この年収で結婚できるのか」。埼玉県に住む30代の観光業の男性会社員は、そう話す。コロナ禍で会社の売り上げが減り、年収が4割近く下がった。月の手取りは十数万円だ。結婚願望は強く、子どももほしい。だが「共働きしたとしても、満足な子育てができるのだろうか」と不安が募るという。
日本経済新聞社は6月3~4日、インターネット調査会社のマイボイスコム(東京・千代田)を通じ、20~40代の未婚男女1000人に、結婚についての調査を行った。
「コロナ禍でも婚姻数が増えるには、何が必要だと思うか」という問い(複数回答)に対し、54.4%が職業訓練の充実や正社員化の促進など「雇用を安定させるための支援」と回答した。次に多かったのは「金銭的な支援(新婚家庭への資金支援、住居補助など)」(42%)だった。
東京都在住の32歳の男性は「給与が減る一方で税金の負担が重く、家庭や子どもまで考える余裕がない」と回答。他にも「男性の正社員雇用の増加が必要」(32歳女性)などの声が寄せられた。
育休や時短勤務など「男女ともに家庭と仕事が両立できる職場の制度づくり」(34.9%)、「長時間労働の是正や休みをとりやすくするなど、働き方改革」(32.8%)も多くの人が必要と訴えた。
コロナ下でも4割超が結婚に意欲
足元での結婚への意欲はどうか。昨年から今年にかけて結婚願望に「変化があった」のは全体の13%。「コロナ禍で結婚願望がでてきた(強まった)」(7.4%)人が、「コロナ禍で結婚願望がなくなった(弱まった)」(5.6%)人を上回った。
結婚願望が出てきた理由(複数回答)として最も多かったのは「2人のほうが健康面で何かあったときに安心」(48.6%)。一方で願望がなくなった理由は「コロナの影響で収入が減り、結婚して生活していけるか経済的に不安になった」(39.3%)が最多だった。特に男性では47.4%が経済的不安を挙げた。
結婚願望に変化はない、と答えたのは86.8%。そのうちもともと結婚願望がある人は36.5%、ない人は50.3%だった。もともと結婚願望がある人と、願望が出てきた人を合計すると43.9%で、コロナの感染拡大という状況下でも、未婚者の4割超は足元で結婚への意欲を持っていることが分かった。
「このまま結婚も出産もしない人生はいやだ」。関東地方に住む臨床検査技師の女性(28)はそう話す。外出自粛で将来のことを考える時間が増え、強くそう思うようになったという。自由回答でも「家族以外と会える機会が格段に減り、寂しさを埋める存在が欲しくなった」(24歳女性)などの声が寄せられた。
20年は出生数も84万832人と過去最少になった。今回の調査では「子育ての費用を国に援助してほしい」(22歳男性)、「教育費は無料にできないか」(28歳男性)など、結婚後の子育てを見据えた要望も目立った。
昨春の感染拡大以降、交際相手がいた219人への質問では、コロナ禍の影響で結婚を「先延ばしにした」「やめた」人は10.5%だった。中央大学文学部の山田昌弘教授(家族社会学)は「背景には健康不安と経済不安がある。健康不安はコロナ禍が落ち着けば減るだろうが、経済不安は支援などを充実させないと解消されない」と指摘する。
調査では出会いについても聞いた。コロナ感染拡大以降、交際相手がいなかった人のうち「出会いは求めていない」人を除いた449人に聞いた結果では、37%が「コロナの影響で出会いが減った」と答えた。具体的には「飲み会が減った」「在宅勤務で、仕事を通じた出会いがなくなった」「婚活イベントが相次いで中止に」などが挙がった。
「20代の貴重な時間をコロナで無駄にした」。東京都内に住む会社員の女性(29)は焦りをにじませる。マッチングアプリに登録し出会いを探すが、感染リスクを考え、対面には至っていないという。「コロナが収まるまでは婚活どころではない。若い世代にも早くワクチン接種を進め、安心して人と会えるようにしてほしい」と訴えていた。
調査の自由回答では「コロナで自分と向き合う時間が増え、結婚や出産について考えるようになった」「お金に関することを考える機会が増えた」といった声が寄せられ、若年層にとってコロナ禍が人生を見つめ直すきっかけとなっている様子も浮かび上がった。
日本若者協議会の室橋祐貴代表理事は「雇用の不安定さを感じてキャリアを見直す若者が目立つ。転職やスキルアップを始め、結婚どころではないという人も多そうだ」と話す。経済的な理由で結婚に二の足を踏む人も多いといい、背景として賃金の伸び悩みや税負担、大学の学費高騰などを挙げる。「婚姻減も少子化も若者だけの問題ではなく、社会全体の問題としてとらえて」と強調する。
(砂山絵理子、松浦奈美)
[日本経済新聞朝刊2021年6月21日付]
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