29歳でマネジャーに立候補 謙虚に徹し部下150人説得
武田薬品工業 クリストフ・ウェバー社長(上)
武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長
私はフランスで生まれ育ち、医師である両親の影響で大学では薬学を学びました。就職も最初から製薬会社で、オーストラリアの会社などを経て1993年に英スミスクライン・ビーチャム(現グラクソ・スミスクライン、GSK)に入りました。27歳のときです。
最初はマーケティングや新製品の投入などを担当し、やがてマネジメントの経験も積みたいと思うようになりました。2年ほどが過ぎたある日、「マネジャーになりたい」と自ら手を挙げました。日本では珍しいかもしれませんが、キャリアを伸ばすために自ら手を挙げるのは欧米では一種の習慣のようなものです。
2年間の実績を上司にアピールしたところ、晴れてマネジャーに推薦してくれました。その上司は製薬業界に入るまでは大学の哲学科で教授をしていた方で、日が暮れるまでオフィスでマネジメントについて議論したのはいい思い出です。
エリアマネジャーとなり、フランス西部で新製品の販売を担当しました。年功序列が多い日本企業では想像しづらいかもしれませんが、150人ほどの部下を持ちました。その多くが私よりも年上で、着任すると「若造から何が学べるんだ」「私たちのほうが経験が多いではないか」という反応でした。彼らもきっと不安だったのでしょう。まずは部下をどう説得するかを考えました。
私は謙虚な姿勢に徹しました。部下に「学ばせてほしい」という気持ちで接すると同時に、私が彼らに提供できる価値は何かを考えました。販売の経験は少ないですが、マーケティングの知識は豊富です。それを生かして、「年下かもしれないがこの上司と働くと自分にも利益がある」と思わせるのが重要でした。
そのなかで手掛けたのが、B型肝炎のワクチンを新たに販売するプロジェクトです。ワクチンは他の医薬品と異なり健常者に接種します。副作用の誤った情報が広がると接種をためらってしまう。皆、ワクチンが好きではないのは当然ですよね。今回の新型コロナウイルスのワクチンにも当てはまりますが、必ずリスクとベネフィットを説明する必要があります。私たちは医師に対して、丁寧に正しい情報を伝える活動を徹底しました。