シリーズは伸仁が成人して終わりますが、私には「自分史」の一部を読んでいるようでした。昭和史の底に沈み込んだはずの、当時の人々のたたずまいや表情が眼前に浮かび、その息づかいや話し声までがすぐそばで聞こえるような気がしてなりませんでした。もう一つの「座右の書」に挙げておきたいと思います。

浅田次郎や沢木耕太郎も同世代であり、とても好きな作家たちです。

外国の作品はあまり読まないのですが、ドイツの『朗読者』は心に残る一冊です。これも戦後が舞台です。

「文庫本」派でもある。

原則として本は文庫本で読みます。持ち歩きに便利だからです。単行本は置き場所にも困りますから、文庫本が出るとそちらに買い替えて単行本は処分したりもします。

ちょっとした時間でこま切れに読むことも苦になりません。移動時間などは格好の読書タイムです。

若いころは文庫本を歩きながら読んだりもしていました。あるとき、その様子をたまたま見かけた家内の友人が家内に「危ないからやめさせなさい」と電話してきたこともありました。

実は文庫本をネタに書評ともエッセーともつかぬようなものを書き続けています。はじまりはとある広報誌でした。5年ほど書き続けたものを単行本にもしてもらいました。

その何年か後、たまたまその本を目にとめたある業界誌の方に誘われて、今度はそちらで2005年から月1度の連載を始めました。最初は1年の約束だったのですが、15年以上たった今も続いています。東日本大震災のときに書く気がせず、一度だけお休みさせてもらいましたが、書くことはもう生活のリズムのようになっています。我ながらしつこさに驚きます。

(聞き手は編集委員 山口聡)

[日本経済新聞朝刊2021年6月5日付]