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出光グリーンパワーの松本真さん

出光グリーンパワーの松本真さん

出光興産子会社の出光グリーンパワー(東京・千代田)は再生可能エネルギーを中心とした電力販売を手掛けている。営業部課長の松本真さん(40)は同社が供給する再生エネ電力で約7割の法人契約をまとめた実績を持つ。営業先の課題を見極め、解決する提案を続けて顧客をつかんできた。「出光を再生エネのナンバーワンブランドにしたい」と意気込む。

松本さんは2003年に出光興産に入社し、その後は企業や家庭向けのLPガス販売を長く担当した。エネルギーを巡る営業現場はちょうど「オール電化」の隆盛期だった。電力市場の拡大に可能性を感じていたところ、異動の声がかかり、出光グリーンパワーが営業を始めた10年に現在の部署に着任した。

同社では一貫して企業や自治体、商業施設、工場、大学などへの法人営業を担う。大手電力や新電力など競合がひしめく中、松本さんが心がけてきたのは人とは異なる言葉でサービスの価値を伝えることだ。その中の1つが「電力には色がある」。電力そのものは品質に差がなく、「色が無い」といわれる。

「再生エネ、火力など電源には差がある。電力はただ安ければいいわけではないでしょう」。政府が50年に温暖化ガス排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル宣言をした今では当たり前に聞こえるが、松本さんは約10年前からこう説明してきた。

あえて独自の言葉で営業を続けることで「環境対策を強化したい企業など響く顧客はいた」と振り返る。10年から契約をしている関東のカーディーラーはその1社だ。「面白いことを言うね」と気に入られた。

契約だけでなく、顧客が抱えている課題をみつけて解決することにも目配りをしてきた。例えばカーディーラーでは店や拠点ごとに電力契約を結んでいたため、料金の支払業務が膨大になっていた。松本さんは「本社で各拠点の電力を一括契約すれば手間が省けますよ」と提案し、採用された。

信頼を得た松本さんは別法人のディーラーも次々と紹介され、関東で系列の約250拠点にまで電力販売を広げることに成功した。

ガス、通信など様々な業種から電力販売に参入する企業があり、顧客獲得競争は激しさを増している。特に新規開拓では営業電話の巧拙が問われ、無作為にかけてもアポイントがとれる割合は1000件に3件、いわゆる「千三つ」だという。

松本さんは「やみくもに電話しつづけるのではなく、需要がありそうなターゲットを絞り、仮説を立てて電話をかける」。さらに独自の目標も決めている。まず担当部署につないでもらえる確率を50%にすることだ。

成功への第一歩は最初に電話をとってくれた人への対応にある。「電力契約に関係ない部署の人だったとしても、そこから営業は始まっている」。相手の状況を察して、話し方やアプローチを機敏に変える。忙しそうだったら簡潔に早口で用件を伝えるなど工夫する。

手段は電話だけにとどまらない。ある時は幼稚園に営業電話をかけたが、門前払いにあった。そこで園長宛てに伝えたい内容を文書にまとめて郵送。改めて電話をかけ、手紙を出した旨を伝えたところ、直接つないでもらえた。

顧客企業の地元に関心を持つことも心がけている。実際に訪問したり、営業資料を持参したりする際は、タクシーの乗務員に名産品や人気の飲食店などについて聞き、駅などの観光案内所でも情報収集する。「だれしも郷土愛を持つ。その地域を知ることは顧客に近づくことであり、会話が弾むきっかけにもなる」

政府のカーボンニュートラル宣言後、企業や自治体から再生エネや電力市場について「解説してほしい」と声をかけられる機会が増えた。

追い風は吹いているが、さらに一歩踏み込んだ提案をできるかが勝負だと感じている。「環境価値だけではない、それぞれの顧客が求める何かを一緒に追求していく。それが営業の醍醐味」と松本さんは気を引き締め直している。

(杉垣裕子)

 まつもと・まこと
 03年出光興産入社。LPガス販売の担当などを経て、10年に営業を始めた出光グリーンパワーの営業部へ配属。法人営業を担当し、18年から現職。東京都出身。
[日経産業新聞 2021年6月4日付]

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